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ゴールデンウイークの最中でしたが、僕は一人で散歩していました。両親は稼ぎ時だし、友人たちは全員予定があって、人と出かける予定がなかったんです。
周りから同情されましたけど、むしろ一人になれると内心喜んでいました。
当時、僕は一人の時間が好きだったんです。
特に、一人きりの散歩は、僕の数少ないストレス発散法でした。目の前に広がる色たちを、心置きなく堪能することができますから。
だから、背後で突然電子音が鳴り響いた時は、それはもう驚きました。
反射的に振り返って、僕は信じられないものを目にしました。
『あ、もしもしー?』
スマホを耳に当てて、軽快に話す女性がいました。溌剌としていて、洗練されていて、一目で勝ち組なんだろうと分かる出で立ちでした。
顔は、覚えていませんでした。
僕の目に留まったのは、女性がまとうワンピースの色だったんです。
イエロー系のチェック模様が全体を彩り、白いレースが施されたワンピースでした。お洒落だけど、全体的にシンプルなデザインでした。
人が見たら【黄色いチェックのワンピース】としか思わないでしょう。
確かにイエロー系でしたが、実際には十数の色で彩られています。
その中で、一際キラリと輝く色がありました。
柔らかな色合いに太陽の光を閉じ込めた、カナリアの羽の色。
幼い頃に心を奪われ、今でも愛して止まない【カナリーイエロー】。
でも、それは僕の知らない【カナリーイエロー】でした。かつてテレビで釘付けになった【カナリーイエロー】も、今まで見てきたどの【カナリーイエロー】も、あれには及びませんでした。
至高。その一言に尽きました。
あの【カナリーイエロー】の輝きは、柔らかさは、唯一無二の存在でした。
最初に話したように、この世に同じ色は一つたりともありません。
だから、ここで【カナリーイエロー】と言っているのも、便宜上そう表現しているだけです。全部、違う色です。
さっき、好きな色をお聞きになりましたが、正確には【中学二年生の子供の日に見たカナリーイエロー】なんです。
奇跡でした。ただの散歩で【至高のカナリーイエロー】に出会えたのです。ずっと、この時のために生きてきたのだとすら感じました。
生きていてよかった。
こんな充実感は、生まれて初めてでした。
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