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大人になれない私たちは
私の母校は、芸能関係に特別力を入れている訳でもなくて、どちらかと言うとスポーツ関係で有名な高校だった。
けれども今は彼の出身校という噂が独り歩きして、その肩書きだけで、志望者も右肩上がり、と言うのを巷で聞くようになった。
甲子園の常勝校。プロサッカー選手や国内で活躍するバレーボールの選手たちを選出する、そんなスポーツ名門高校に、特にスポーツが得意だったわけでもなく、特別ななにかを続けていたわけでもなく、単純に家に近いから、という理由で私はその高校に進学を決めた。
高校生活に慣れて、徐々に増えつつあるカップル達を羨ましいなあと眺めながら、華々しさとは無縁な生ぬるい生活を送っていた、そんなある日。
「なあ、男に抱かれた経験ある?」
放課後の教室でクラス日誌を書いていた私は、突然身に降りかかった火の粉を振り払うこともせずに、瞬きを繰り返した。
視界が震えてしまうのはときめきからか緊張からか。
──それとも恐怖心なのかはわからない。
ただ目の前にある、目尻の垂れ下がった瞳は見惚れるほど綺麗で、そして野生の獣のそれによく似ているように感じた。
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