2158人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前ん家って、いつ来ても誰も居ねえよな」
私を寝かせた雨宮くんはそう言いながら覆い被さると、涙で張り付いた髪の毛を手で払った。嫌な予感がして、身構える。
「……なんで?」
彼は秘密をこじ開けようとする。だから、私は短くなやんで、やっぱり閉じこもる。
今は私ひとりきりだけど、この家に越した時、家族は四人居た。
あの夏の日、私が待二人を待たせたせいで、父と兄が居なくなった。それから母は少しずつおかしくなって、ずっと会っていない。あの人にとって私は必要じゃないらしい。代わりにお金が置かれている。少しずつ、母から自分という存在が削ぎ落とされている感覚がある。
寂しいと思ったのはいつからで、寂しいのが当たり前だと感じ始めたころ私は全て諦めていた。
なのに、家から一番近い高校を選んで、同級生と疎遠にして、今でも母が帰ってくる日を待ち続けている。
馬鹿みたいだ。
「……色々あるの」
私は逃げる。過去から、寂しさから、私を組み敷き見下ろす雨宮冬稀という人から。
「色々か」
その妖艶な瞳は余裕そのものだ。どうして答えていないのに、私が負けたような気持ちになるのだろう。
目をそらすと、何故か急に抱きしめられた。面食らって瞬きする私を宥めるように、雨宮くんは髪を撫でる。
「色々あるけど、俺は璃凪がいればいいよ」
ああ、やっぱり彼は悪い男だ。ただ抱くだけの関係の私にそんなに甘い言葉を掛けるなんて。
……距離を置かなきゃ。
間違えちゃダメ。踏み込みすぎたらダメ。
彼の気が済んだその時、上手にサヨナラができるように。
元のクラスメイトに戻れるように。
最初のコメントを投稿しよう!