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光明へと降る君へ
暗がりの中で蠢く2つの人影。部屋の中も外も、真暗である。
2つの影は、度々重なり合い、僅かに離れ、また重なり合うというのを繰り返していた。これが始まってから、もう1時間は経過しているだろう。ぐぎゅる、と腹の虫が泣いた。可哀想な鳴き声だった。まるで、俺のこころのようだった。
2つの影は、時折互いに荒い鼻息を吐きながら、どんどんと高みに上り詰めていくようだった。喘ぎ声とは認識できようのない、獣の咆哮のようであった。
俺はその2つの影。母と父とのまぐわいを6畳の畳の隅で、黄色く、ところどころシミがついて黒がぽつぽつ浮いているカーテンの隙間から見ていた。
母は父の上で腰を持ち上げたり、落としたりしながら息を吐いている。父も、母と同じように下から腰を打つようにして鳴いている。低い声で、鷲のような鋭い眼光で、母を見ている。
俺はまた、腹の虫が鳴る。可哀想だと、自分に思うことは許される行いだろうか。もっとも、目の前で繰り広げられているまぐわいを見て、身体を震わせているよりかは、幾分か気楽なものだろうか。
2日ほど、小学校の給食しか口にしていない。腹の虫が鳴るのは、俺にとっては特段珍しいことではない。朝飯もない、昼飯は、なんとかある。何度もおかわりをする。給食代は遅延しているが、クラスの担任教諭は何も言わない。家庭内と思しきトラブルに巻き込まれたくはないのだろう。服も、ところどころ汚れている。砂埃や、クラスメイトに殴られたりした跡の茶色く変色した半ズボンなどが、良い例だ。夜飯は、当たり前だがない。
俺はだいぶ古めかしいこのアパートに連れてこられて、2ヶ月が経つ。目の前でまぐわっている2人のうちの、父親か実父だ。女のほうは、父が2ヶ月前に再婚した女だ。血の繋がらない女だ。母親らしいことは、まだ何もされていないような気がする。
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