光明へと降る君へ

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 風呂場から出る。床に落ちているバスタオルで水気を拭き取る。ジメリと濡れているバスタオルで身体を拭く。汚らしいと思いながらも、他に使っていいと許可されたタオルはないからそれで拭く。結局洗っても拭くときにこの蒸れた、乾燥していないバスタオルを使うのだからほとんど意味がないのを知っている。でもそうする。他に手立てはない。特に意味はなくてもそうする。それが普通。俺の普通。俺の普通は、クラスメイトの普通ではないらしい。よくわからないが、違うらしい。だがあまり興味はない。  部屋の扉が開いた音がする。大急ぎで汚れた服を着て、リビングに走る。おかしいな。普段はいっつも、半日ほど家を開ける両親なのに。おかしいな。  女の子が玄関にいる。突っ立っている。目を僅かに開いて、直立している俺を見ている。手には白いビニール袋を持っている。袋はこんもりと膨らんでいる。高学年と見られる女の子は、部屋に足を踏み入れる。再婚相手の女の服と、実父の服が散乱している部屋に入ってくる。呆然とした俺の前に膝をつく。床にビニール袋を置いて、俺と目線を合わせてくれる。  目元が笑っている。引き攣るように笑っている。口端が揺れる。上下に揺れる。 「蒸しパン食べない?」  俺の前に現れた女神がそう、口にした。
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