覚悟とは、するのではなく出来ているものなり

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覚悟とは、するのではなく出来ているものなり

 私の名前はMr.ジン。  最近、お腹が出て来て少し困っているナイスミドルだ。  若い頃は遊びまくっていたのだが、結婚してからは真面目なダンディーパパに転向した。  仕事だって、真面目な上に何でも熟すマルチプレイヤーとして日々活躍しているのだ。  その甲斐もあってか、今では周りからの信頼も厚くなり、自分は良い人生が送れているのだろうと思っている。  なのに、なのに!だ!  私は今、人生最大の危機に遭遇している。  その危機というのはこうだ。  先ず状況だが、私はギュウギュウ詰めの満員電車で帰宅途中だ。  そしてその車中で、私の背中と左脇に何やらフワフワと柔らかいモノがギュウギュウと押し当たっているのだ。  すし詰め状態なせいで確認出来ないが、感触からして多分そうなのだろうと確信している。  ムニュムニュ、フワフワ・・・  ふあー、気持ち良いーぞー!  天国だ!  でも、このままだと痴漢として逮捕される。  捕まったらほぼ100%、有罪が無理矢理確定だ。  会社は解雇になって退職金も出なくなり、無収入になるから裁判費用の捻出も出来なくなるだろう。  家族も世間体を気にして早々に離散するだろうし、私に残るのは賠償金と住宅ローンの支払いくらい。  そして、世間から後ろ指を差されながらの惨めな人生が待っているのだろう。  クソッ!  何もしていないのに!  全く以て理不尽だ!  無理矢理逃げるか?  いや、それで怪我したり死んだ奴もいるし、罪状が増えてもっと苦しい立場になる。  このままでは私の幸せな人生は永久に戻らず、惨めな前科者人生になってしまう。  悔しいな。  しかし、これも私の人生なのだろう。  世間との過酷な闘いが・・・  そして、日陰者としての惨めな人生が・・・  始まるのだな。  ・・・あ!  ムニムニがマジで気持ち良い!  イヤイヤイヤイヤ、落ち着こうか。  ムニムニ・・・  うっ!気持ち良い!  でも我慢だ!  痴漢は嫌だ!  緊張で脂汗が出まくっている中、少し空いて来たので離れる事に成功した。  助かったー!  緊張したー!  でも、このままでは何か悔しいから相手の顔を見てやろうと考え、振り返ってみる。 「ハア、ハア、いやあー混んでるから暑いですねえー」 「フウーフウー暑いですねー」  ワッハッハッハッ・・・  プヨンプヨン  ムニムニー  ふ・・・巫山戯んな!  どっちも俺と同じオッサン・・・  太鼓っ腹だったのか!!  何か、腹が立つなあ。 男は 敷居を跨げば 七人の敵あり  こうして世のお父さん達は、人生をかけた苛烈な闘いを覚悟しながら毎日の通勤をしているのだった・・・
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