じいちゃんのラーメン事情

1/2
前へ
/2ページ
次へ

じいちゃんのラーメン事情

「おいっ。悦子もう帰ってきとるか。えらいこっちゃ。」  珍しくじいちゃんが慌てた様子で、母さんを呼んでいる。 「じいちゃん、どないしたん。」 「おお、浩明か。えらいことになってもうた。」 「え、何っ。」  急いで台所に行ってみると、じいちゃんがコンロの前でおろおろしている。 「あ、とりあえず火を止めなあかんよ。」 「お、おお。そうか。」 「じいちゃん、火傷してへんか。熱かったら、すぐに冷たい水で冷やさなあかんで。」 「いや、わいは何ともない。」 「じいちゃんが何ともないんやったらええわ。俺ここ片付けるから、じいちゃんは食堂で座って待っとって。」 「おお、すまんの浩明。」 「ええよ。ちょっと待っとってな。」  じいちゃんは、自分で袋のラーメンを作ろうとして、火の加減が分からずに吹きこぼしたらしい。  母さんは近所の会社に事務のパートに行ってるけど、じいちゃんと自分の昼飯を作りに十二時過ぎには帰ってくるのに、何故かじいちゃんは自分で作ろうとした。 「じいちゃん、できたで。俺も腹減ってたから作った。一緒に食べよ。」 「すまんの、浩明。」 「謝らんでもええよ。さ、麺がのびんうちに食べよ。」 「浩明が作ってくれたから旨いわ。」 「ははっ。これは、書いてある通りにやったら、それなりに旨なるねん。」 「そうか。」 「それにしても、なんで急に自分でやろうと思ったん。」 「え、『なんで』て。そらわいも、自分のことは自分でせなあかん思うてやな。」 「ははっ。母さんが帰って来るまで我慢できひんかったん。俺が帰ってきてへんかったら、どないしとったんよ。」 「せやなぁ。慣れんことはせんこっちゃな。」 「じいちゃんが火傷でもしたら大変やからな。あ、せや。じいちゃん、やかんで水沸かすくらいはできるやろ。」 「おお。それ位はわいにもできる。」 「次からは、どうしても食べたい時や一人の時はカップ麺にしとき。俺の好きなやつ、今度じいちゃんにもこうてくるわ。あ、せや。電気ポット買お。」 「おお。浩明は、麺類にも詳しいのか。何でもよう知っとるなぁ。」 「じいちゃん、別にカップ麺のこと知っとっても、偉いことも何もないよ。」 「いや。浩明は、じいちゃんの知らんことも知っとる。」 「それ言うたら、じいちゃんは俺の知らんことをようさん教えてくれたやん。」 「せやったかいな。」
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加