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じいちゃんのラーメン事情
「おいっ。悦子もう帰ってきとるか。えらいこっちゃ。」
珍しくじいちゃんが慌てた様子で、母さんを呼んでいる。
「じいちゃん、どないしたん。」
「おお、浩明か。えらいことになってもうた。」
「え、何っ。」
急いで台所に行ってみると、じいちゃんがコンロの前でおろおろしている。
「あ、とりあえず火を止めなあかんよ。」
「お、おお。そうか。」
「じいちゃん、火傷してへんか。熱かったら、すぐに冷たい水で冷やさなあかんで。」
「いや、わいは何ともない。」
「じいちゃんが何ともないんやったらええわ。俺ここ片付けるから、じいちゃんは食堂で座って待っとって。」
「おお、すまんの浩明。」
「ええよ。ちょっと待っとってな。」
じいちゃんは、自分で袋のラーメンを作ろうとして、火の加減が分からずに吹きこぼしたらしい。
母さんは近所の会社に事務のパートに行ってるけど、じいちゃんと自分の昼飯を作りに十二時過ぎには帰ってくるのに、何故かじいちゃんは自分で作ろうとした。
「じいちゃん、できたで。俺も腹減ってたから作った。一緒に食べよ。」
「すまんの、浩明。」
「謝らんでもええよ。さ、麺がのびんうちに食べよ。」
「浩明が作ってくれたから旨いわ。」
「ははっ。これは、書いてある通りにやったら、それなりに旨なるねん。」
「そうか。」
「それにしても、なんで急に自分でやろうと思ったん。」
「え、『なんで』て。そらわいも、自分のことは自分でせなあかん思うてやな。」
「ははっ。母さんが帰って来るまで我慢できひんかったん。俺が帰ってきてへんかったら、どないしとったんよ。」
「せやなぁ。慣れんことはせんこっちゃな。」
「じいちゃんが火傷でもしたら大変やからな。あ、せや。じいちゃん、やかんで水沸かすくらいはできるやろ。」
「おお。それ位はわいにもできる。」
「次からは、どうしても食べたい時や一人の時はカップ麺にしとき。俺の好きなやつ、今度じいちゃんにもこうてくるわ。あ、せや。電気ポット買お。」
「おお。浩明は、麺類にも詳しいのか。何でもよう知っとるなぁ。」
「じいちゃん、別にカップ麺のこと知っとっても、偉いことも何もないよ。」
「いや。浩明は、じいちゃんの知らんことも知っとる。」
「それ言うたら、じいちゃんは俺の知らんことをようさん教えてくれたやん。」
「せやったかいな。」
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