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4 つらい宣告
タクミと私は南田レディースクリニックの待合室で並んで座っていた。もう待合室には私たちしかいない。
一昨日は私の高温期の検査で採血検査と経膣超音波検査をしたところだ。初期検査の結果については子宮頸がん陰性、クラミジア陰性、血液検査(抗精子抗体検査及び一般検査)も特に問題なかった。
私も不妊治療の検査について調べて、予約が混雑して低温期のホルモン検査が無理なら、同じく低温期でも少しだけあとの卵管造影検査とか排卵期のフーナーテストが順番的に高温期の検査よりも先だということにあとから気付いた。タクミの精液に何か異常があったから、卵管造影検査とフーナーテストは後回し、もしくは中止になったんだろう。まぁ卵管造影検査は結構所要時間が長いらしいから単に予約可能な枠がなかっただけかも知れないけれど。
私が隣に座るタクミの手をギュッと握って待っていると「塩谷さん、診察室1番にどうぞ」と受付から呼ばれた。ふたり揃って深呼吸して診察室に入った。
南田レディースクリニックに来ている男性不妊担当医の本職は藍原病院という総合病院の泌尿器科部長だそうだ。病院の人事なんて私には知る由もないけれど、科のトップの人だからなかなかに権威のある医師なのだろう。
「男性不妊外来担当の益田です。塩谷巧さんですね。」
「はい、よろしくお願いいたします。」
緊張のせいかタクミの声は少し掠れている。
「採精時の体調やストレスなどに影響を受けるので本来でしたら何度か検査を受けていただいたうえで判断するのですが、先日の精液検査の結果では、あなたは無精子症です。」
「…!」
呼吸が止まるような言葉にならない衝撃がタクミと私を襲った。
「あの…無精子症って本当に精液中に1匹も精子がいないんですか?!」
「はい、こちらが検査結果のレポートです。」
***検査結果***
精液量…4ml(基準値1.4ml以上)
精子濃度…0/ml(基準値16,000,000/ml以上)
精子運動率…0%(基準値42%以上)
総運動精子数…0(基準値16,380,000以上)
正常精子形態率…0%(基準値4%以上)
※基準値は2021年のWHO(世界保健機構)によるもの※
**********
タクミは「0」が並んだレポートを益田先生から受け取り、絶句していた。益田先生はタクミに淡々と話し掛ける。
「問診票によると、塩谷さんには特に既往歴もなく、喫煙はされていないが飲酒は嗜む程度と。それなら問題はないですね。体型は見たところ特に肥満でもないですね。えー、精巣を圧迫することは避けて、ボクサーパンツよりトランクスが望ましいですね。ふむ、デスクワーク中心で勤務時間中はほぼ座りっぱなしというのは良くないですね。1時間に1回は必ず、少しで良いので、立ち歩くようにしてください。サウナがお好きみたいですが、精巣を温め過ぎると良くないので、少し控えましょう。あとは…まぁお仕事でのストレスがお有りとのことですが、たまには軽い運動でもなさってストレス発散しましょう。」
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