5 前向き

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5 前向き

 クリニックを出たタクミは「うーん」と唸って大きく伸びをした。実はタクミはオランダ人と日本人のハーフである父(身長184cm)と日本人の母(身長169cm)から生まれたクォーターで、身長が188cmある。ちなみにタクミには5歳上の兄(身長189cm)がいて、塩谷(しおや)一家は高身長なのだ。そんなタクミが隣で突然両腕を上げたものだから私もビックリしてしまった。 「ちょっとー!いきなり隣に巨木が現れてビックリしたやんか!」 「あはは、ごめんごめん。緊張しっぱなしで体がガチガチになってたからちょっとほぐしたくて。」  タクミはわざと明るく振る舞っている。 「はぁー………。悪い結果を予想してはいたけど、俺の予想の遥か上をいく結果やったからさすがに(こた)えたわ。今…、もう17時前?!マナも疲れたやろうし、乗り換えのなんば駅まで行って食事して帰ろう。なんばなら飲食店いっぱいあるしな。」 「うん、私は良いけど…。タクミはそんな気分じゃないんと違う?」 「まぁ…食事を楽しめるかどうかって聞かれたら楽しまれへんかも知れんし、さっき先生にも飲酒は嗜む程度にって言われたけど、今日は飲みたい気分やねん。特にキンキンに冷えた生ビール!マナはお酒飲まへんのに俺だけ飲んで申し訳ないけど。」 「私は体質的に飲めへんだけで、我慢してるわけちゃうから、全然気にせえへんよ。あ、でもタクミが泥酔したら私の力だけでは介抱できひんから程々にしといてや!」  なんばは私たちの家の最寄り駅から1本でアクセスできる繁華街だ。アパレルや雑貨、輸入食品、飲食店など様々なテナントが入った駅ビルがたくさんあって百貨店や高級ホテルもあるので私たちもよく来る場所だ。 「どこ行く?生ビールが飲めるところって言っても選択肢がありすぎて困るね!いつも食事メインの店に行ってるけど、今日は居酒屋とかにする?」 「いや、そんなたくさん飲みたいわけじゃないし。落ち着いた店のほうが良いから、ここにせえへん?」  タクミが私に見せたスマートフォンの画面には高級ホテルの中の創作鉄板焼き店が表示されていた。 「えっ?!華舞(はなまい)やん!平均予算が1ケタ多いで、ここ!」 「ここ、マナが前に行ってみたいって言ってなかったっけ?」 「いや、言ったけども!今日はやめとこ?ドレスコードとか特に書かれてないけど、着回されてこんな若干くたびれた服で行くのは場違いな気がする。」  そういうもんか?と首を傾げるタクミに、今度は私がお店候補を表示したスマートフォンの画面を見せた。 「じゃあここの焼鳥屋さん、飛翔亭(ひしょうてい)はどう?髙崎屋(たかさきや)百貨店の中のお店やけど、私たちが普段行けへんフロアやし。甘いものも食べたい気分になったら1フロア下のいつものカフェにも行けるよ。」 「良いやん!俺、実は前からこの焼鳥屋に行ってみたかってん!」 「またタクミは調子いいこと言ってー!」  私が落ち込んだらタクミの気遣いが無駄になってしまう。私もタクミの空元気に合わせた。
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