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飛翔亭は時間が早かったこともあって、小さな半個室に入ることができた。注文はタブレットでする方式だ。タクミはタブレットを操作しながら「生ビールと…マナは何飲む?パリパリ湯葉載せ彩り野菜サラダと焼鳥5本盛り合わせタレセットと塩セットと手作りつくねはマストやな。」などと注文を決めていく。
「私はアイスジャスミンティーが良いな。フワフワだし巻き卵とよだれ鶏も食べたい!あと時間が掛かる鶏釜飯も先に頼みたいでーす!」
「了解!」
飲み物とお通しが先に運ばれてきたので、早速乾杯することにした。
「マナ、俺の通院に付き合ってくれてありがとう。お疲れさま。乾杯!」
「タクミこそお疲れさまやね。乾杯!」
タクミはゴクゴクと喉を鳴らしながら生ビールのグラスを一気に飲み干した。「もう一杯くらい生ビールにしよっかな」と言いながら追加注文していた。
「益田先生めっちゃ良い先生やったな。予約枠を超えて無理やりねじ込まれた俺に嫌な顔せず対応してくれて、診察は16時までで終わりのはずやのに俺のために16時30分過ぎまで懇切丁寧に説明してくれてセカンドオピニオンまで勧めてくれて…。」
「そうやね。私への気遣いもしてくださって…本来なら院長から説明を受けるであろう今後の治療方針まで説明してくれるなんて、ほんま良い先生やな。」
注文した料理と追加注文した生ビールがざっと運ばれてきた。飲み会では低価格帯チェーンの居酒屋しかほぼ行ったことのない私なので、並べられた一品一品のボリュームの大きさに驚いてしまう。
「すごい!御馳走やん!」
「あぁ。さすが髙崎屋の飲食フロアに入ってる店はちゃうなー。」
私たちは、思いの外、食事を楽しめた。クリニックを出た直後の空元気なタクミとは違って、美味しい料理と生ビールのお陰で自然と明るい笑顔が出ていた気がする。飛翔亭を出て私たちは階下のお気に入りのカフェ、ミカエルに向かった。フルーツタルトが美味しいお店だ。
見知った顔の男性店員に店の奥のソファー席に案内され、私たちは早速注文した。
「私は季節限定のピーチタルトとセイロンティーのセットをお願いします。」
「ガトーショコラとブレンドコーヒーのセットを。」
男性店員はオーダーを受けると一礼して去っていった。
「タクミはいつもフルーツタルトやけど今日はガトーショコラなんやね!」
「何となく濃厚なチョコレートと苦めのコーヒーでちびちびいきたいなと思って。」
そう言ってタクミはお冷を一口飲んで「俺、ホルモン検査や染色体検査もできる病院を探してもう一度精液検査を受けることにするわ。」と静かに言った。
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