5 前向き

3/3

15人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
「益田先生もその日の体調とかストレス状態に大きく影響されるから精液検査は複数回受けるのが望ましいって言ってたし、次の診察予約も2ヵ月後やしな。」 「うん。私もそれが良いと思う。」 「俺はセカンドオピニオンというか、精液検査とかホルモン値とかの検査の結果、最終的にMD-TESEを受けることにしたとして、マナの転院はどうする?」  そこへ注文したピーチタルトやガトーショコラなどが運ばれてきた。私はピーチタルトの桃の実のキレイさに感動していた。無色透明のナパージュのコーティングでツヤツヤに輝くほんのりピンク色に色づいた白桃のスライス。 「タクミ、見て!この桃のスライス、色も形もめっちゃキレイじゃない?傷んで変色してるところを切り落としたみたいな痕跡がまったくないし!かなり上級品やと思わん?タクミも少しピーチタルト食べてみて!」 「おぅ、ありがとう。では少しいただくわ。んー美味(うま)っ!下のカスタードクリームも桃のフレーバーついてる感じか?俺のガトーショコラも適当に食べてな。」 「ありがとう。いただきます。あー安定の濃厚さやな!やっぱミカエルはすべてが美味しいわ!!」  桃にテンションが上ってしまってタクミの質問に答えてなかったことを思い出した私。 「あの、転院のことやけどね、ひとまず私は検査を一通り終えてからが良いと思ってるねん。中途半端に転院したら紹介状書いてもらってたとしても再検査とかなったら時間も検査費用も勿体ないしさ。」 「確かにな。やるとしたらやけど、俺のMD-TESEのタイミングをどうするかやな。マナが転院してからの方が良いかな。まぁまたお互いに病院候補探してから考えようか。」 「帰ったら病院探しやね。今はインターネットで何でもすぐに探せるから便利やんな。昔は病院探しとかどうしてたんやろね?」  このときの私は非閉塞性無精子症に対して楽観的過ぎた。何でもインターネットで調べられるからこそ、「当院では精子採取率50%以上」とか「精子が見つからなくても精子細胞が採取できれば顕微授精に至る」などの甘言にまんまと乗せられ、現実の厳しさを理解していなかった。いや、私はタクミと私の子どもを産みたいという願望にすがって、現実逃避というか、無意識に現実の厳しさから目を背けていたのかもしれない。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加