6 セカンドオピニオン

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6 セカンドオピニオン

 今日は7月26日火曜日。タクミは有給休暇で梅田駅の近くにある曽根崎(そねざき)泌尿器科というクリニックを初診で受診している。既に一度精液検査を受けていて非閉塞性無精子症であると診断されたと伝えているので、視触診と血液検査も受けているはずだ。  タクミの勤務先は西九条駅が最寄り駅なので西九条駅周辺でクリニックを探したのだが、精液検査だけでなくホルモン検査や染色体検査を行っており、なおかつ男性不妊外来担当医が常駐しているという条件に合うクリニックは見付けられなかった。  私は7月21日木曜日に低温期のホルモン検査を夜診で受けた。前回の高温期のホルモン検査は特に問題ないという結果だった。相変わらず院長から今後の治療方針について説明はなかった。タクミのMD-TESEが終わるまで何も言わないつもりなのだろうか。  パワハラ副部長(以下、パワハラの「P」に省略!)に説明しなければならないことがあってPの席まで赴いたが、「そういうことはもっと早く説明しに来い!お前の都合で仕事すんな!」と怒鳴り散らされた。心の中では「うっさいんじゃ、ボケ!喫煙室に入り浸って、支店長に(こび)売りに行って、ずっと自席に()らんかったのはお前やろがぃ!お前の都合で仕事してんのはお前じゃ!業務用携帯電話鳴らして伝えたら良かったんかぇ?」と悪態を()きつつ、タクミの検査に思いを馳せながらパワハラを聞き流した。  本当にあのPどうにかならんかな、なんて考えながら自席に戻ると、係長が小声で「お前の都合で仕事してんのはお前やろ!って感じやな。」と私のさっきの心の中の悪態を見事に再現して迎えてくれた。課長はプリンターに印刷物を取りに行く際に私の背後を通った際に、「あんま気にしなや。」とこっそり声を掛けてくれた。  Pと係長は以前にも別の部署で直属の上司と部下の関係だったらしいが、その時もPが係長にキツく当たったり、Pが係長を飛ばして主任に直接仕事の指示を出したり、係長だけに情報を伝えないなど陰湿な嫌がらせをしていたようだ。その当時の因縁があるのになんでまた上司と部下になるかな…と、副部長の人事異動が判明した際に、課長と係長は人事部に恨み言を言っていた。  Pは係長を目の敵にしているから、その係の一員である主任の私も、その部下の佐藤くんにもキツく当たっていた。高齢再雇用のベテラン社員やパートの女性にはさすがにそんな理不尽なことはしていなかったけれど。そんなわけで私はPのことが大嫌いだ。職場の人間に対してここまで嫌悪感を抱く相手はP以外になかなかいないだろう。  不妊治療が本格的に始まったら、係長や課長にまずは報告して、部長に説明するのは良いけれど、本当にPにだけは説明に行きたくないと心底思った。  
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