6 セカンドオピニオン

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 少しの残業後、仕事を終えてスマートフォンを見ると、タクミから「お疲れ!今日は梅田の百貨店でサラダと惣菜を買ったからマナは買い物せんで良いよ!」とメッセージが届いていた。私は「タクミもお疲れさま!ありがとう。じゃあ、まっすぐ帰るね。」と返信した。  私が20時頃に帰宅すると、タクミが買ってきてくれた葉物野菜のサラダ・ポテトサラダ・マカロニサラダの3種盛りと9品の肉や魚や野菜の惣菜が少しずつ入ったおせちみたいなオードブルと雑穀ご飯(タクミが炊いてくれた)が用意されていた。 「マナ、お帰り!」 「夕飯の用意ありがとう!オードブル豪華やね!」 「せっかく梅田まで行ったから、阪宝(はんぽう)百貨店に寄ってみたんや。さすが関西一って言われるだけあって、売り場が広い!迷子になる。」 「それ分かる!そもそも阪宝百貨店なんて行くことほとんどないし、広すぎてなかなか目的の店にたどり着けへんくて、売り場の中グルグルするよなー。」 なんて言いながら今日もふたりで「いただきます」と食卓を囲めることにホッとする。私は仕事で嫌なことがあっても、帰宅してタクミと向かい合って食事しながら他愛のない会話をすることで心のモヤモヤが晴れる気がするのだ。  私はタクミの検査について気になっていたけれど、タクミが話そうとしないので私の今日の職場でのPとのやり取りについて愚痴をこぼした。タクミはPをエリア内会議とかで見かけたことがあるようで、そのときにもPはPより上の立場の者に胡麻をすっていたらしい。Pみたいに公然とパワハラするやつが普通に昇進していける私たちの勤め先ってヤバいよな、と私たちの勤め先を(けな)して私の愚痴は終わった。  少しの間、私たちの間に流れる沈黙。  そしてタクミが重い口を開いた。 「今日の検査の結果やけど、やっぱり非閉塞性無精子症っていう診断は同じやった。」  私はタクミに何と返して良いか分からず、「そうなんや。」としか言えなかった。 「ホルモン値と染色体の検査は、今日は採血だけで、結果はまた次の診察で説明を受けることになってる。次の診察は8月10日水曜日の夜診やから、定時退社日やけど帰りが遅くなるわ。」 「うん、分かった。」 「非閉塞性無精子症の中で最も多い原因は【クラインフェルター症候群】っていう指定難病らしい。普通なら男の性染色体はXYやけど、XXYとか、とにかくX染色体が複数ある、男だけの病気なんやって。その次に男性不妊に多いのはY染色体の精子を作る機能に関する部位が欠損してる…んーと…【Y染色体微小欠失(せんしょくたいびしょうけっしつ)】っていう症状、というか状態らしい。」  タクミは今日の説明内容をメモしていたらしく、メモを見ながら教えてくれた。 「クラインフェルター症候群もY染色体微小欠失も性染色体の異常で、造精機能を回復する手段はない。でもMD-TESEで採精できる可能性はなきにしもあらず、や。性染色体の異常が原因じゃなくて、ホルモン分泌に原因があるんやったら、時間はかかるけど治療でホルモン補充することによって造精機能が向上することはある。」
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