9 転院先探し

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9 転院先探し

 お義兄さんからタクミに連絡が来たのは、塩谷家を訪問した1週間後の8月20日土曜日だった。私たちの不妊治療に協力してくれるという返事だった。  但し、条件として、無事に子どもが生まれたら、 ①お義兄さんが実の父親であることは生まれてくる子に絶対に明かさないこと。(どこから秘密が漏れるか分からないから他人にも一切口外しない。) ②お義兄さん一家の財産分与に関与しないこと。(やっぱりお金の問題はきっちりしておかないと。) ③お義兄さん一家と私たち一家の子どもはいとこ同士時々交流を持たせてほしいこと。(一応、遺伝子的に繋がっているからお義兄さんも子どもの様子は知りたいということだろうか。) この3項目について、書面を作成し、お互いに一通ずつ持つということだった。弁護士とか司法書士に依頼するのが良いのだろうか…。  8月25日木曜日、私は痛いと噂の卵管造影検査も結局受けて、本当に痛くて受けたことを後悔したが、異常がなかったのは良かった。そんなわけでフーナーテストという性交後の子宮頸管粘液を調べる検査以外は全て受けることができた。低温期のホルモン検査でプロラクチンという排卵に関するホルモンが少し高いと指摘されたけれど、排卵障害を起こすほどではないということだった。  今後非公式な方法で不妊治療を継続しようとしている私は、南田レディースクリニックで紹介状を書いてもらうことが出来ないので、今までの検査結果のすべての写しがほしいと院長に頼んだが、「血液検査の結果は短冊のような形状の用紙を都度渡してますが、それでは何か不足なんですか?」と面倒臭そうに睨まれて私はそれ以上何も言えなかった。  お義兄さんの協力も得られ、私の検査結果も整い、あとは通える範囲で私たちを受け入れてくれる医療機関を見付けるだけだ。  私はまず自宅と職場双方からのアクセスの良さを最優先に考え、夏期休暇中にリストアップしていた9つの大阪市内の高度不妊治療対応医療機関の中で、問い合わせフォームやメール相談窓口のある4つの医療機関にメールを送ってみた。 **********  夫がY染色体微小欠失による無精子症であると診断されました。でも夫と私は私たちの子どもを諦めたくありません。  夫は欧州人と日本人のクォーターですが、欧州人の外見的な特徴が強く、おそらく日本人の精子を用いるであろう非配偶者間人工授精では、万一、子どもを授かれたとしても、父子間の容貌の相違が子ども自身のアイデンティティ形成に影響を与えかねないため、夫の実兄の精子を用いて不妊治療を行っていただける医療機関を探しております。因みに夫も夫の実兄も血液型は同じ【O型Rh+】です。  正当な治療ではないことは存じ上げておりますが、どうか貴院で私たち夫婦を患者として受け入れていただけませんでしょうか? **********  それが8月27日土曜日、もう9月も目前のことだった。今日はタクミは出勤していて夕方まで不在だ。
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