9 転院先探し

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 私とタクミの勤め先では年に1回、今後のキャリア形成のための(?)上司との正式な面談が10月頃に行われるのだが、その面談の際に必要な書類を提出しなければならない時期だった。  私がメールを送った4つの医療機関からの返事が来る前に書類の提出締切になってしまうかも知れない。もし今回メールを送った医療機関から治療を断られたら、リストアップした残りの5つの医療機関に電話なり何なり問い合わせて、その5つの医療機関からも断られたら、また地域を変更してリストアップし直さなければならない。非公式な治療方法を希望している私たちを受け入れてくれる医療機関は本当に大阪府内で見つかるんだろうか?大阪府内でダメなら長野県まで通うしかないのか?そこまでして不妊治療を継続するのか?  不妊治療は夫婦で臨むものではあるが、最終的に妊娠・出産するのは女性なので、仕事と不妊治療の両立に頭を悩ませるのも女性だ。  長野県まで通院することになったらおそらく仕事は続けられない。退職してクリニックのそばに住むか、診察の都度前泊するか。そうして不妊治療を続けても子どもを授かる保証もない。キャリア形成面談用の書類の内容にも関わるし、タクミにも相談してみよう。  タクミが帰宅した。今日の夕飯はタクミの好きなチキンカレーライスだ。玄関までカレーの香りが漂っていたのか「ただいま」の言葉に続いたのは「カレーやん!良いやん!」というタクミの上機嫌な声だった。  カレーを食べながらタクミに私が今日の昼間の転院先探しや長野県への通院、それに伴う私の退職について話してみた。 「退職して通院したとして子どもを授かる保証もない、か。確かにそうやんな。俺も通院のためにマナに退職を強要したくはない。でもせっかく兄さんにも協力してもらえるから、俺とマナの子どもを授かれる可能性があるなら簡単に諦めたくない気持ちもあるねん。ごめんな、優柔不断で…。」 「ううん、私もそんな仕事に対して上昇志向とか出世欲とかあるわけでもないんやけど。退職してしまって、次の再就職がうまくいくかなって心配が強いだけやねん。もうキャリア形成面談用の書類は混沌とした現状をありのままに書くわ。面談される頃には転院先も見つかってるかも知らんし。」 「夫が男性不妊で、対応できる病院を探している最中ですって正直に書いてくれたら良いで。」  私はキャリア形成面談用の書類に「今年度に入り不妊治療を始めたが、先日、夫の男性不妊が判明したところで、自分たちの望む治療に対応してもらえる医療機関を大阪市周辺で探している最中であり、もし見付からなければ長野県のクリニックへの転院も視野に入れている。長野県に転院することになれば、退職も考えなければならないが、現在結論が出せない状況である。」と記入し、週明けに課長に提出した。
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