9 転院先探し

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 8月30日火曜日には2つの医療機関からメールの返信が届いた。内容はどちらも「当院では対応できない」ということだった。日本産婦人科学会から除名されるような治療方針を希望する患者を受け入れてくれる医療機関がそこかしこにあるわけがなくて当然なのだ。予想どおりと言えば予想どおりであるが、それでも落胆はした。  9月2日金曜日、昼休みにスマートフォンを見ると、3つ目の医療機関からメールの返信が届いていた。なんとそこには「当院でご協力できることもあるかと思う」と書かれていたのだ。暗い洞窟の中を歩いていて突然一筋の光が差したようだ。  メールには問診票が添付されており、保険証の写真かコピーと問診票をメール返信か郵送すると、初診日時の相談の連絡が来るという段取りのようだ。初診は某オンラインミーティングツールによるオンライン診療ということで、私は今どきの医療機関ってこういうことも取り入れてるんだなと感心した。 私はタクミに「大阪市内で病院見つかった!」と短くメッセージを送って、仕事に戻った。  私が帰宅すると、タクミが部屋着に着替えたところだった。 「マナお帰り。同じ電車やったんかな?」 「そうかも。仕事帰りはいつも最後尾の車両に乗るから改札まで遠いねん。少しでも()いてる車両に乗りたくてさ。」  今日の夕飯はスーパーの広告の品だった春巻きやエビチリ、酢豚、八宝菜、胡麻団子が入った中華オードブルとサラダと昨夜の残りのご飯だ。「いただきます」と食べ始めるなり、タクミが「転院先見つかったんやな!」と喜びの顔を見せた。 「どこのクリニックなん?」 「阿倍野区の、天王寺駅が最寄り駅やねんけど、楢崎(ならさき)レディースクリニックっていうところ。外国人の患者さんも多いみたいで、英語、中国語、韓国語に対応できるんやって。」 「それはすごいな!」 「問診票とか明日書いて早速送るわ。」  ちなみに終業後にスマートフォンを見ると、4つ目の医療機関から「当院では対応できない」という返信が入っていた。  翌朝、私は問診票のPDFファイルをパソコンに転送してデータで作成しようと思っていたが、Adobe Acrobatの入っていない我が家のパソコンでは編集できず、WordやExcelファイルに変換してみたけれど、表の形状が崩れたり、書式が変わったり、原型が分からなくなってしまったため、印刷して手書きする方が早いと気付いた。  問診票は生年月日、身長、体重や既往歴、薬によるアレルギー反応など一般的な総合問診と南田レディースクリニックで受けた検査の結果を問うような婦人科問診があり、一部不明な点もあったが概ね記入できた。保険証もコピーして問診票に同封し、クリニックあてに郵送する。 「切手がないから大きな郵便局まで行って問診票発送してくるね。」 「あ、そうなん?ほんならふたりで出掛けて郵便局の近くにできたカフェでランチでも食べようや。」 「うん、良いね。そうしよう!あ、食事するんやったら軽く化粧するからちょっと待って!」  取り敢えず転院先が見つかった私たちは久々に楽しい時間を過ごした。
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