10 再開

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10 再開

 今日はタクミが最後に南田レディースクリニックに通院する日でもあり、私の最初の楢崎(ならさき)レディースクリニックのオンライン診療の日でもある。  タクミは南田レディースクリニックの予約をキャンセルしようか悩んでいた。 「どうせMD-TESEも受けへんし、曽根崎(そねざき)泌尿器科の結果を話すためだけに男性不妊外来の予約を一枠占領するまでもないけど…。でも予約キャンセルも今更やし。益田(ますだ)先生に挨拶もなく最後になるのは失礼かなぁ?」 「電車賃も診察費用も掛かるけど、益田先生ももしかしたらタクミのこと気にしてくれてるかも知らんから行ってきたら?」 「俺なんてたくさんの患者のうちの1人やろ。まぁ良いか。めっちゃ親切な先生やったしお礼言うてくるわ。」 というやり取りをしたのが先週のことだ。  そんなわけで早目に昼食を済ませてタクミは出掛けていき、私はオンライン診療に備えて待機中だ。土曜日はオンライン診療も予約が取りづらく、元々今日も予約で埋まっていたらしいが、キャンセルのためたまたま空いた一枠だったらしい。次に予約可能な土曜日が約1ヵ月先の10月8日になるそうなので、初診はタクミにも同席してもらいたかったが断念した。  私が夕飯を作っているとタクミが南田レディースクリニックから帰宅した。タクミから「115があるときー!」とさっきメッセージが来ていたが、難波で【115】の豚饅を買ってきてくれたみたいだ。 「タクミ、お帰りー。」 「今日は電車の発車まで時間があったし、順番待ちしてる人が少なかったから115買ってみた。」 「ありがとう!115めっちゃ好き!」  今日の夕飯は115の豚饅、雑穀ご飯、サラダ、トマトと玉ねぎのマリネ、人参と小松菜と厚揚げを昆布だしで炒め煮して卵でとじたものだ。タクミがふたり分の麦茶と雑穀ご飯を配膳して待っていてくれた。私もサラダとマリネと卵とじを配膳して席に着いた。  ふたり揃って「いただきます」と食事を始める。 「オンライン診療のことやねんけどね。」  私は今日のオンライン診療の音声を流した。夫以外には絶対に聞かせないし、夫に聞かせたら絶対に削除するからとしつこく頼んで渋々録音を許可してもらった。 ―先日のメール相談と問診票は拝見しました。ご主人の実兄から精子提供を受けての治療をご希望ということですね。 ―はい。 ―私どもはあくまでも塩谷さんのご主人の精子として扱いますので、カルテ上も精子はご主人のものとなります。 ―かしこまりました。 ―他院で不妊検査をされたと…。問診票にご記入いただいた検査結果によると塩谷さんは特に不妊要素はなさそうですね。 ―あの、プロラクチンが少し高いと言われたのですが。 ―これなら高いうちに入りませんよ。で、えっと、AMH値を見ても年相応でまだ卵胞の数には余裕がありますが、加齢に伴い質は落ちますので、塩谷さんの妊娠率も年齢から考えて高いわけではありません。精液検査の結果にもよりますが、当院としては人工授精よりも体外受精からのスタートをお薦めします。……………  
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