10 再開

2/3

15人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
 録音を聞き終える頃にはほぼ食事は終わっていた。 「体外受精からのスタートか。卵子を取り出さなあかんからマナの身体の負担が大きいよな…。」 「でも人工授精よりも体外受精の方が受精の確実性は高いから短期間で結果を出せるかも。」 「短期間で結果を、とか予備校のキャッチコピーみたいやな。」 「でも私も仕事と不妊治療のどちらも続けたいと思ったらそんなに長期間にならん方が良いかな。有給休暇にも限りがあるし、新設された不妊治療のための休暇は無給なうえに有給休暇より少ないし。クリニックの薦める方針に反して人工授精を何回か試して、もし結果が出なくて体外受精にステップアップするなら、その何回かの人工授精を試した期間を後悔しそうやねん。」 「そうか…マナがそう言うなら体外受精からのスタートでいくか。俺も楢崎レディースクリニックの男性不妊外来の予約取らなあかんねんよな。そのときに兄さんの精液を提出できれば良いけど…。あくまでも俺の精子として持ち込むんやんな。採精後2時間以内っていう制限があるから移動時間を考えるとギリギリかな?」  お義兄さんの家は川西市だ。夕飯を食べ終えたタクミが麦茶を飲みながらスマートフォン片手に移動時間を調べている。 「川西池田駅から天王寺駅までとして、電車に乗ってる時間はだいたい40分〜50分か。」 「楢崎レディースクリニックは男性不妊外来の先生は常駐やけど、精液検査の受付は月曜日〜土曜日、8時〜11時ってさっきの先生が言うてはったで。」 「あ、そっか!そしたら11時に間に合うように持ち込むとしたら兄さんの家は遅くとも9時30分までに出発せなな。余裕を持って9時15分か?!」  タクミは早速お義兄さんに都合の確認の連絡を取り始めた。 「もしもし、兄さん?前に頼んだ精子提供のことやねんけど。うん、土曜日で。9月24日?そしたら24日、朝8時過ぎくらいに採精キット届けに行く。ほんで、遅くても9時過ぎには出発したい。絶対に3日間は禁欲やで。え?古くなりすぎてもあかんから、せめて1週間前くらいには一旦抜いといてよ。え?当日は手でやるねん!ちゃんと手洗ってからやで。ゴムはあかんで!俺かて2回も病院の採精室でビデオ見ながらひとりでシコったわ!」  マナはタクミがお義兄さんと話し始めた際に、兄弟の生々しい会話を聞かなくて済むように食器を洗い始めたがタクミの声が大きいので結局丸聞こえだった。お義兄さんの声はさすがに聞こえないが何となく話している内容は想像できてしまって聞こえているこちらが恥ずかしくなってしまう。 「うん。何度か頼むと思う。ごめんな。そこは手土産持参で、お義姉さんにもよろしく言うて。もちろん家に上がる気はないよ。朝の8時台から図々しくお邪魔したらさすがにお義姉さんも嫌がるて。こっちが頼んでることやからお気遣いなく。うん、ありがとう、よろしく。ほな。」
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加