11 顕微受精

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11 顕微受精

 10月3日月曜日、部の朝礼で今日から順にキャリア形成面談をすると沢田課長から周知があり、早速私はキャリア形成面談で応接ブースに呼ばれた。私の所属する部署は私の直属の上司の沢田課長ともう一人浦川課長がいて、浦川課長はP(久々登場、パワハラ副部長)とべったりで、嫌いではないが苦手だった。面談してくれるのが沢田課長で安心する。 「塩谷さん、その…不妊治療で退職も考えてるって書類に書いてるけど、これを提出してから一月(ひとつき)経った今の気持ちはどうなん?」 「実は大阪市内で転院先が無事に見つかりまして、退職はしなくても良くなりました。今後の治療スケジュールとかを今日説明しようと思って一昨日の土曜日にクリニックでもらった行程表とかをコピーして用意してきたんです。でもまさか、朝一番でキャリア形成面談に呼ばれると思ってなかったので、私の不妊治療の説明が面談のついでみたいなことになってしまってすみません。」 「僕の奥さんの友達が昔不妊治療してたみたいで、治療を機に退職したって聞いてるんやけど。塩谷さんが退職しなくても良いって言える根拠は何かな?」 「私の中では仕事と不妊治療は両立できるとは思っているのですが、あ、こちらが不妊治療の行程表です。副部長や部長に説明するときにも同じものをお渡しするつもりで用意してきたんですけど。」 「副部長と部長には僕から説明するから、それももらっておくわ。退職しなくて良いと思う根拠を続けて。」 「はい、転院先は大阪市内なので家からも職場(ここ)からも通えるクリニックです。不妊治療は生理周期に応じて通院日が決まるので、確かに急に休暇や時間休をいただかないといけないうえに、通院の頻度も2〜3日に1回程度とかなり多いです。ただ当日欠務ではないのである程度の引き継ぎや段取りは可能だと考えます。私の仕事をカバーしていただくことになる山中係長や佐藤くんには多大なご迷惑をお掛けすることは心苦しく申し訳ない気持ちもあります。しかし、仕事は私じゃなくても出来ますし、今じゃなくても出来ますが、私と夫の子を産むことができるのは私だけですし、私も34歳なので先延ばしにしていたら子どもを授かることも出来なくなります。当社でも不妊治療のための休暇制度が出来ましたし、今は不妊治療を理由に職場で不当な扱いをされるような時代ではないと思いますが、頻繁に仕事に穴を開ける主任がこの部署に不要だということならば、私は主任という役職を降りることも異動することも厭いません。ただ自主退職する意思はありません。」 「分かりました。では直近で休まなあかん日は決まってるんかな?」 「すみません。先程もお伝えしたとおり、生理周期によって通院日が決まるので、今月の…その…生理がまだ先なので通院日も決まっていません。今月は20日頃に生理が来るかなと思っています。」
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