11 顕微受精

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 男性の上司に自分の生理を報告しなければならないって、こんな恥ずかしいことはない。でも必要なことだから仕方ない。あの大嫌いなPには課長から話を入れてもらえるのは助かったが、課長もPも部長もみんな妻帯者だが、女性の生理のことなんてよく知らないに決まっている。不妊治療についても、私だってまだよくわかってないし、結局経験者にしか分からない。取り敢えず私のキャリア形成面談は終わり、一応今後の不妊治療の大まかな説明も、理解を得られたかどうかは別として、説明責任は果たしたと思う。  課長は「山中くん(係長)にも僕から説明するけど、佐藤くんやパートさんたちへの説明をするかしないかは塩谷さんに任せるから。」と言ってくれたが、係長には自分の口から改めて説明しよう。  夕飯のときに、私が「今朝早速キャリア形成面談があって、そこで不妊治療の話と今後の治療スケジュールについて自分の生理の話をしたんやけどめっちゃイヤやった。」とタクミに愚痴を言ったら「男としても生理の話を聞かされると反応に困ってしまうな。」と言っていた。まぁそうだろうな。でも私には通院予定日にも関わる重要なことだから話すのが恥ずかしいとかセクハラとか言ってる場合ではない。あくまでも事務的に淡々と生理を報告するしかないのだ。  私の治療プランというのが、生理が来たらクリニックに連絡し、生理3日目からデュファストンという薬の内服とHMG注射という自己注射を採卵の2日前まで連日行うというものだ。生理6日目に通院し、卵胞の育ち具合を診て、必要に応じてHMG注射の量を調整する。生理8日目にも通院し、卵胞の育ち具合を診る。生理10日目にも通院し、卵胞の育ち具合を最終確認し、基本的には採卵は生理13日目らしいが、状況を見て採卵日時を確定させる。そして採卵手術の36時間前にオビドレルという注射を自己注射し、採卵前日は服薬も注射もなく、採卵手術当日を迎える。  採卵日に合わせて採精できるのが望ましいということだがさすがにお義兄さんの仕事に支障が出てはいけないので私の採卵日前に持ち込みで一旦は精子の凍結保管をするのが良さそうだ。  楢崎レディースクリニックでは採卵手術は全身麻酔によって行われるので、手術当日0時から絶飲絶食。7時台に来院して採卵手術を受ける。  医師が経膣超音波でモニターを確認しながら、膣から採卵用の細長い針を挿入して卵巣の中の卵胞を穿刺(せんし)して卵子を吸引採取する。開腹手術ではないから半日で帰宅できるというわけだ。  あとは胚培養士と呼ばれるプロの仕事で、採卵された卵子の中でも成熟した卵子が選別され、卵丘細胞が除去される。精子も正常形態で動きの良いものが選別され不動化処理される。不動化処理された精子を卵細胞質内に注入し受精させるのが顕微受精だ。  受精卵の細胞分裂が始まったものを【(はい)】と言い、中でも受精後2〜3日の胚は【初期胚】、受精後5〜6日で更に細胞分裂が進んだ状態の胚は【胚盤胞】と言う。私たちの治療プランではこの胚盤胞を凍結し、後に融解(ゆうかい)して子宮に移植するのだ。
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