11 顕微受精

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 治療プランについては納得したし、採卵後にどのような作業が行われるかも概ね理解できた。しかし自己注射だけは納得できないと言うか出来る気がしなかった。  最初に治療プランを見たとき、自己注射というのはインスリン注射のようなペンタイプのものを使うのだと想像していたが、持ち帰ってきたものを見ると全然違っていた。 ●個包装のアルコール消毒綿 ●採血検査後などに貼る正方形の止血テープ ●個包装の針のない注射器(シリンジと言うらしい) ●個包装の太めの注射針(20Gと書いてある) ●個包装の細くて短い注射針(26Gと書いてある) ●ガラス容器に密封された溶液(アンプルと言うらしい) ●密封された小瓶のようなものに入った薬剤(バイアルと言うらしい)  【自己注射講座】という動画を見て、自己注射は注射の薬液を自分で調合するところから始まり、下腹部に注射するものだと知った。動画内で自己注射してる女性は看護師だろう。とても慣れた手つきで、いとも簡単に注射薬を調合し、ためらいなく下腹部に自己注射していた。 「こんなんド素人が出来るん?!何が『注射針を刺す角度は45°』やねん!刺す以前の問題や。」  一緒に動画を見ていたタクミは顔色が悪く「俺、注射とか採血とか見るの無理…。」と言っていた。生理3日目から採卵の2日前まで毎日これを自分でやるのかと思うと、ゾッとした。  実際に生理が来たのは10月21日金曜日の朝だった。クリニックに連絡を入れ、日曜日から服薬と自己注射を始めるよう言われた。同時に生理6日目の水曜日の予約を取る。定時退社できることに期待して夜診を予約した。係長や課長にも生理が来たことを報告し、通院予定日を記入したカレンダーを手渡した。  生理3日目の日曜日、初めての自己注射だ。  手を洗って清潔にし、シリンジに20G(Gはゲージと読むそうだ)の注射針を装着。バイアルのキャップを除去しておき、アンプルの先端をポキっと折る。注射針のキャップを外し、アンプルの中の溶液をシリンジで吸い上げる。バイアルのキャップの下にはゴムのような栓があり、その栓に注射針を刺し込み、溶液を注入してバイアル内の薬剤を溶かす。軽く振って溶け残りがないことを確認し、もう一度シリンジで薬液をすべて吸い上げ、バイアルから注射針を抜く。20Gの注射針にキャップをして26Gの注射針に取り替える。  アルコール消毒綿で下腹部の注射位置を消毒して少し乾かす。26Gの注射針のキャップをしたまま、シリンジの中の空気を押し出すために注射針の先端から1〜2滴押し出したのち、キャップをはずす。下腹部の注射位置の周りを軽くつまみ、注射針を刺して薬液を注入する。注射後は注射針にキャップをして、止血テープを貼って完了だ。  注射針、シリンジ、アンプル、バイアルの医療廃棄物は採卵日まで空箱にまとめておく。  初めての自己注射は緊張と恐怖で手は震えるし、注射針をお腹に刺す前に深呼吸して「やるぞ!」と思うのに、刺す寸前で「怖い!無理!」を何度も繰り返し、どうにか刺したが注射針と下腹部の皮膚が摩擦して痛かったし、疲れ切ってしまった。「40分くらい掛かった。」私は脱力して暫く動けなかった。  
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