12 採卵までのあれこれ

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 月曜日、今日は定時退社しなければ注射時刻に間に合わない。排卵誘発のオビドレルの1時間前にいつものHMG注射をしなければいけないからだ。課長にも係長にもそのことは伝えており、採卵手術の日の有給休暇も終日取るということで了承を得ている。  以前、後輩の佐藤くんには「不妊治療をしていて今後は通院のために時間休を含めて有給休暇を取らないといけないことが多くなるので、佐藤くんにも仕事の負担が増えるかも知れないから申し訳ないです。」と話しており、不妊治療の関係で今日も定時退社しなければならないこと、水曜日は庶務で忙しい日だが、どうしても休暇を取らないといけないことを話したら、「大丈夫です!任せてください!」と勢いよく笑顔で返してくれた。  ところが終業の1時間前くらいから係長以上の役職のミーティングが始まり、それなりに進行していた大冊の要綱を作る作業がPと浦川課長に引っ掻き回され始めた。主に関わるのが山中係長が説明した部分、つまり私たちの係の内容だった。沢田課長は不服そうな顔を見せたが、Pと浦川課長の勢いは止まらず、見せ方の統一感は大事だと部長も納得しており、私たちは内容の大修正を余儀なくされた。  私の残り時間はあと40分足らずだ。定時のベルが鳴ったところでどう考えても私の帰れる雰囲気ではない。ダメ出しは続いている。私もミーティングテーブルから聞こえてくる修正指示を聞きながら、ところどころ修正を試みているが、これも無駄になるかも知れない。  終業のベルが鳴る。私は佐藤くんに「ミーティングテーブルから聞こえる指示を聞きながら作業したファイルがこれやねん。でもそもそもこれもボツかも知れへんねんけど。もし山中係長が席に戻ってきてから続きで使えそうやったら使って。」と引き継ぎしたところで、沢田課長が「パートさんたちが退室していってる流れで、今のうちにコソッと帰り。」と退社を促してくれた。本当に良い課長だ。 「すみません。課長、佐藤くんありがとうございます。今日帰らせていただく分と水曜日お休みいただく分は明日頑張りますので!」  帰りの電車で揺られながら、事情を知らない他の係の人たちは私のことを無責任な主任だと思ってるんだろうなと考えてしまう。やっぱり仕事と不妊治療の両立は難しいんかな…。いざ不妊治療で通院を始めてみると、周りが私のせいで負担を被っているのに「不妊治療」という免罪符のせいで周りは私に対して不平不満があっても我慢を強いているという気持ちがどんどん強くなっていった。不妊治療は私の免罪符どころか罪悪感でしかなかった。
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