13 初めての採卵

2/3

15人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
 ランチのあと今晩の食材を買って帰宅したところでクリニックから電話が掛かってきた。 「はい、塩谷です。」 「楢崎レディースクリニックで胚培養士をしております太田(おおた)と申します。」 「はい、お世話になっております。」 「本日採卵させていただいた卵子の説明をさせていただきます。お時間よろしいでしょうか。」 「はい。大丈夫です。よろしくお願いします。」 「はい。ではご説明させていただきます。本日は12個採卵させていただきまして、10個を顕微受精させていただいております。このあとも受精の様子は胚培養士がしっかりと確認させていただきます。残りの2個の卵子につきましては、卵胞の大きさは20mmを超えていたのですが、中の卵子が未成熟でした。未成熟な卵子に対しては体外成熟培養という特殊な処置を行い、成熟するかどうか経過を見るという方法もありますが、体外成熟培養によってすべての未成熟卵が受精に適した卵子になるとは限りません。また体外成熟培養についてはオプションとして別料金が発生します。費用は未成熟卵の数に関わらず10万円、税込みで11万円となります。どうなさいますか?」  私は「11万円?!」と心の中で叫んだ。採卵・顕微受精で確か70万円くらい費用が掛かるうえに更に11万円追加とはなかなかの出費だ。でもせっかく取れた2つの卵子を無駄にしたくない気持ちもある。今回だけ試してみようと思い、「体外成熟培養のオプションを追加してください。」と少し声が震えたが胚培養士に伝えた。 「かしこまりました。今回採卵した卵子の顕微受精結果及び凍結保管状況につきましては約1週間後に電話でお伝えさせていただくとともに、次回の診察にて培養レポート等を医師よりお渡ししますので、次回診察予約を別途お取りいただきますようよろしくお願い申し上げます。」 「はい、ありがとうございました。」  夕飯を作り始めようとしたところでタクミから夕飯キャンセルのメッセージが入っていることに気付く。買ってきた食材は明日に持ち越そう。自分だけが食べるならご飯だけ炊いてレトルトカレーでも良いかな。今日は水曜日で定時退社日、そして明日は祝日。きっとタクミは上司に連れられて飲みに行くので帰りは遅いだろう。採卵のことは明日話せば良い。  私は早々に簡単な夕食を済ませ、抗生剤を飲み、シャワーを浴びてベッドに入った。採卵した日は感染症予防のために抗生剤を服薬しなければならない。湯船に浸かるのも禁止だ。午前中に麻酔でよく眠ったけれど、ベッドに横になってSNSをスクロールしているうちに私は眠りに落ちていった。  
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加