13 初めての採卵

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 翌朝、私は6時に目が覚めた。8時間くらい眠ってとてもスッキリしている。隣のベッドではタクミが眠っている。昨日タクミは何時に帰ってきたんだろう?  私はタクミを起こさないようにそーっと寝室を出て、身支度を整えて静かにフローリングモップを掛けたり水回りを磨いたりキッチン周りを拭き掃除した。  7時半ごろにタクミが起きてきた。 「おはよう。顔色悪いやん!二日酔い?タクミがそんな飲むなんて珍しいねぇ。」 「酒癖悪い課長がおってさ、ほんまアルハラ&パワハラ&セクハラ。若い女性社員が絡まれてな。助けようと思って俺が課長を引き離したら俺がこのザマ。アルコール強いやつにこういう役回りは頼みたいもんや。」 「何か二日酔いの薬あったかな?この家にそんな備えないような。」 「あー、ドラッグストアで買ってきてん。そこのグラス取ってもらっていい?水注()がせて。薬飲んでまた寝とく。ごめんな。」  そう言ってタクミは水を入れたグラスを持って寝室に戻っていった。  トイレ掃除も終わって私は昼食用にお気に入りのパン屋に行くことにした。タクミも好きなパンを買って来よう。タクミが食べられなければ明日に残しても良いし。  私がパン屋から戻るとタクミが起きてきていた。顔色は朝よりか幾分かはマシになったようだ。 「【ロジェ】さんのパン買ってきたけど、食べられる?」 「お帰り。パンいただくわ。で、昨日の採卵の話も聞かせて。」 「うん。タクミ何飲む?」 「胃のコンディション悪いから水で。掃除も買い物もマナにさせたからな、水くらいは自分で用意せな。」  タクミに昨日の採卵と体外成熟培養というオプションのことを話したら「ひっ!11万円?」と言っていたが「貴重な卵子の数が増えるかも知れへんねんから、まぁ試してみる価値はあるわな。でも自費診療やからってすごい金額やな。」とも言っていた。 「それにしてもさ。麻酔で寝てる間に職場から着信3回はヤバない?!身体にメスが入るわけじゃないけど、手術受けるって言うて休暇取ってるわけやん?」 「まぁ忙しいタイミングで無理矢理休ませてもらったから仕方ないかなって。」 「俺も大概社畜やけどさ、マナは重度の社畜やな。」 「私たち会社に毒されてるからね。」  ふたりで笑いつつも溜息を()く。 「女性機能には男性機能よりも明らかなタイムリミットがあって、不妊治療を受けると決めたら『今』しかないやん。今日が一番若いわけで、先延ばしにすればするほど女性機能は衰えてくし。不妊治療のための休暇制度もできたから、不妊治療を受ける権利が会社からも認められたと思ってたけど、実際は自分が権利行使するほど、どんどん肩身が狭くなる。私、退職するか降職するかも。お金は必要やからできれば退職はしたくないけど。もし退職したらタクミにお金の負担かけることになるけど、ごめん。」 「いや、そもそも不妊治療が必要なのは俺の事情やん。それに不妊治療するってのはふたりで決めたことやねんからマナが謝る必要ないよ!むしろ自分で注射したり手術受けたり、マナの負担のほうが大きいんやから。マナが降職しても退職しても俺は何の文句も言わん。」  私は課長に降職の相談をすることを決めた。
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