あなたに会いたかった

2 仕事と不妊治療

　タクミが帰宅したのは21時前だった。私はテーブルに夕食を配膳する。かぼちゃとなすとズッキーニ、玉ねぎ、ベーコンをトマトで煮て少しコンソメで味付けしたラタトゥイユ風の煮物と、プレーンオムレツ、コーンスープ(インスタント)、千切りキャベツのサラダに雑穀ご飯が今日の私たちの夕食だ。
「お帰り。お疲れさま。」
「マナも検査お疲れさま。今日はいつもより夕食が豪華やな！」
「半日のんびりできたから。いつもこれくらい彩り良くて品数が作れたら良いんやけどね。」
「ありがとう。俺はマナが無理せんでくれればそれで良いよ。」
「うん、ありがとう。じゃあ食べよっか。」

　ふたりで「いただきます」と声を揃えて食事を始める。私たち夫婦の普段の食事はスーパーの惣菜が多い。帰宅が21時を過ぎるくらいの残業が多いし、私も料理が得意というわけではないので時間的に品数を作れないからだ。
　タクミは結婚するまで平日の食事は基本的にコンビニ弁当やカップ麺やインスタント食品だったらしく、今も私の用意する食事がどんなに粗末でも手抜きでもタクミは絶対に文句を言わない。食事の準備に時間をかけるより睡眠時間を確保することが大事、というのがタクミの持論なのだ。
　私も食にこだわりが強い方ではないけれど、生野菜のサラダとタンパク質系の卵か肉か魚は必ず摂りたいので、食事は私が準備している。スーパーで惣菜を買ってくるのも私だ。タクミは帰りが遅くなるくらいなら惣菜も無理して買ってこなくて良いと言ってくれているが自分が食べたいものを買うのだから苦ではない。

　タクミはコーンスープを飲み終えてから、私に「検査どうやったん？」と尋ねた。
「検査結果の説明はまた次回やって。検査って一回に全部終わるもんやと思ってたんやけど、違うねん。生理周期に応じて検査項目が違うから、あと2〜3回は検査で通院せなあかんねんて。でもこのクリニックってアクセスが良いからか混み具合がすごいんよ！今日は9時30分の予約やったのに呼ばれたのは10時30分過ぎてたし、会計が終わったら12時前やし、とにかくほんまに待ち時間が長くて疲れてしまって…。このクリニックならサクッと仕事前とか仕事終わりに通院できるとか考えてた自分の考えの甘さを呪ったわ。時間休取らなあかんけど、生理周期で通院日が急遽決まるからなかなか前もって休暇申請も出来ひんし。仕事と不妊治療の両立が難しいってこういうことなんやね。」