14 甘くない現実

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 沢田課長に降職の相談もしなければならない。課長のスケジュールを確認する。今日は視察のための出張後直帰。明日は会議があるので、会議前は資料を読んでいるだろうから、時間を取っていただくなら会議後が良いだろう。  気付けば昼休みも残り時間が少ない。私は慌てて食堂に行き、炒飯(チャーハン)にがっついた。  食堂から自席に戻ると何やら騒がしい。部長が大声で「13時から緊急の社内一斉放送があるから予定してた打ち合わせはそれが終わってからやー!席に着けよー。」と呼び掛けている。  支店内一斉放送じゃなくて社内?!部長がパソコンをスピーカーに繋いでいる。まもなく13時だ。 ♪ピーンポーンパーンポーン♪  代表取締役社長の宮園(みやぞの)です。  本日、我が社が各種ハラスメントを容認してきたことにより、精神的・身体的苦痛を受けたとして現職者及び退職者及びご遺族計17名の原告団より8000万円の損害賠償を求める民事訴訟の被告となりました。  我が社はローカルの小さな会社ではありますが、大阪府内で本社含め8拠点、京都府内、兵庫県内にそれぞれ2拠点、滋賀県、奈良県、和歌山県にそれぞれ1拠点あり、正規、非正規問わず社員は1000名を超える会社です。  会社にとって社員は宝!  その社員を守るためにこれまで設けていた社内のハラスメント相談窓口が適切に機能していなかったのは由々しき事態であり、その実態を把握していなかったのは私の不徳のいたすところであります。  マスコミから本件について照会などあるかと思いますし、社員の皆さんにもご不安な気持ちにさせてしまうこともあるかと思いますが、社外で本訴訟について口にすることのないようにお願い申し上げます。  日々、誠実に仕事に向き合ってくださっている社員の皆さんにこのようなことをお伝えしなければならないことは大変遺憾ではございますが、何卒よろしくお願い申し上げます。 ♪ピーンポーンパーンポーン♪  結局マスコミに余計なことを喋るなという口止めがしたかったのか。しかも原告団に遺族が入ってるって、ハラスメントを苦に社員が自殺したとかそういうことですよね。そう言えば朝のミーティングが終わってからPの姿が見えない。  ミーティングテーブルで係長以上の打ち合わせが始まった。いつもの部長と違い声を張らず、上司たちも声を潜めて話している。  そして打ち合わせが終わり、係長が朝のミーティングのときのように高齢再雇用のベテラン社員もパートさんも呼び集めて小声で話し出した。 「墨田(すみだ)副部長は今日付けで退職しました。後任はいません。あと、さっきの社内放送でも言われたけど、絶対にハラスメントの件は社外で言わないように。以上です。」  Pが退職!絶対にこの訴訟案件が絡んでいる。Pとベッタリだった浦川課長の顔色も悪い。気付けば部長もいつの間にかいなくなっていた。スケジュールが出張後直帰に変わっている。聞き取り調査などがあるのだろうか。
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