15 行く年来る年

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15 行く年来る年

 11月に会社を揺るがした訴訟案件もあって社内はゴタついたまま12月の繁忙期を迎えた。  本社のハラスメント相談窓口を担当していたのは支店長などを経験した高齢再雇用のベテラン社員たちだったが、ハラスメント講習を受けていながらも「私たちの時代はこんなこと当たり前だった。」という意識が強く「これくらいで相談してくるような社員ばかりで困ったね。」くらいのスタンスで応対していたという。メールや電話での相談は電子データや録音が残るのだが、窓口担当社員が作成すべき応対記録もなく、当然ハラスメント調査も一切行われなかった。ベテラン社員たちは時代錯誤だとゴシップ記事で相当バッシングを受けた。当然社内相談窓口は閉鎖、ベテラン社員たちは解雇された。  支店長、部長、副部長、課長級の社員がハラスメント加害者だったり、加害はしていないが監督責任を問われたりで程度の重い懲戒処分を受け、ポストが空く支店も多かったが、当然補充できる人員もおらず、おそらく会社史上最悪の繁忙期だ。  ハラスメントで個人ではなく会社が訴えられたことで企業の信用に傷がつき、契約更新を断られる営業社員も多かった。  私は私で、訴訟案件で上司たちが社内調査を受けたのが落ち着いた頃に課長に降職を申し出ると、本社の人事部からヒアリングを受けたり、降職承諾書なるものを提出させられた。会社として私への人事は不当な降職ではないという念書のようだ。  わざわざ本社から社員が出張(でば)ってきたのは、どうやら原告団の中に私と同じように不妊治療を受けながら仕事をしていた女性社員がいたが、上司に不妊治療をしていることをアウティングされて、ツラい思いをしながらも働きつづけようとしたが、休んだ分は自分で責任を取れと休日出勤や残業を強いられ、最終的に自主退職するように追い込まれたという。  私は本社人事部社員のヒアリングに対して、沢田課長や山中係長、そして佐藤くんは私の不妊治療のためにスケジュールを優先してくれたこと、仕事をカバーしてくれたことを話し、ハラスメントは一切なく全面的に協力してくださったことを強調した。私が降職を申し出たことは私がそういった全面的な協力を得ることが申し訳なくなったからだと伝え、次は現職の企画職やお客さまとのスケジュールが大切な営業職より一般事務が希望だと伝えた。
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