15人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
新年を迎えた。今日は久々に箕面にある塩谷の実家にご挨拶に伺うことになっている。
タクミはお義兄さんのお子さんたちへのお年玉を確認している。私は【豆福】で買った上用菓子のお年賀を入れ忘れていないか確認する。
「ほな出発しよか!」
電車は結構賑わっていて華やかな着物を来ている乗客もいる。ベビーカーの赤ちゃんと目が合った。来年か再来年かもっと先になるかも知れないけれど、タクミと私も子どもと一緒にお出かけできると良いな。
塩谷家にはお義兄さんたちご家族が先に到着していて、インターフォンを鳴らすと真珠ちゃんと大弥くんが「あけましておめでとうございます!」という元気な挨拶とともに出迎えてくれた。「明けましておめでとう。」と言って、早速タクミはふたりにお年玉を渡す。「たーくんありがとう!」と言って子どもたちは「ママー!たーくんがお年玉くれた!」とバタバタとお義姉さんのところに駆け寄っていく。今年も賑やかなお正月だ。
タクミと私も家に入って、私はお義母さんとお義姉さんにお年賀を手渡して「本年もよろしくお願いいたします。」とご挨拶した。相変わらずお義姉さんの京香さんは美人だ。新年早々、眼福だな。
みんなでおせちやお寿司を囲んで楽しく過ごした。私はお義母さんと並んで食器を洗っている。
「不妊治療はどう?進んでるん?」
「1回だけ採卵しました。今3個の胚盤胞っていう、ある程度細胞分裂が進んだ受精卵を凍結保管してるんですけど、また採卵して胚盤胞を増やすか、次は胚盤胞を移植するかまだ迷っているんです。」
「そうなんや。これ治療費の足しにして。」
「え?!いや、いただけませんよ!」
お義母さんは30万円くらいは入っているだろう厚みのある封筒を私のワンピースの大きなポケットにストンと入れた。
「タクミのために貯めてたお金やから遠慮は要らんのよ。主人が『息子のためにしてやれることはこれくらいしかないからな。』って。だからマナさん、こっそり受け取っといて。」
「お気遣いありがとうございます。」
私はそっとポケットの上から厚みに触れた。
あとでタクミにこっそりお義父さんとお義母さんから支援金をいただいたことを話そう。
塩谷家を出る頃にはすっかり暗くなっていた。
「すっかり長居してすみませんでした。」
「ええんよ。賑やかで楽しかったわ。マナさん、治療がんばってね!」
「はい、ありがとうございます。」
「父さん、母さん。ほなまた来るわ。あの…援助ありがとう。」
私たちは家路についた。明日は私の実家、桜庭家へ行く日だ。
最初のコメントを投稿しよう!