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16 タラレバ
繁忙期も終えた年明け、次のサイクルも採卵に決めた。胚盤胞をある程度ストックしておくほうが良いと思ったからだ。
オンライン診療の予約を取ってからのスタートなのでもしかしたら1月中にサイクルをスタートできないかも知れないなと考えていた。
私たちの正月三が日は塩谷家と桜庭家と近所の百舌鳥八幡神社に初詣に行くだけだ。結婚してからは毎年お決まりのパターン。
百舌鳥八幡神社の本宮の参拝に並んでいる間にふと思い出したことがあった。
「何年か前に子宝に恵まれますようにって神社巡りしたことあったやんね?」
「あぁ、3年くらい前やったかな?」
「思えば動き出すならあのとき動き出してたら良かったなって。あのときならまだ私も主任になっていなかったし、確実に3年は若いから少しは卵子の状態も今より良かったかも知れん。」
「まぁそうかも知れんけど。あのときはまだ結婚して1年半とか2年やったから、あのときの俺は正直そこまで真剣に子どものいる生活を考えられてなかったと言うか…。俺も主任に昇職したばかりでそこまで余裕もなかったし。まぁ思い立った今のタイミングで正解ってことでええやん。」
「そやね。ごめん。タラレバ話なんて始めたら切りがないもんな。」
「マナ、改めて今年も一緒に頑張ってこうな。」
「うん。」
タクミは繋いでいた私の手をさらにぎゅっと力強く繋ぎ直した。
昼食は雑煮用の人参と大根、切り餅を入れた白味噌のお雑煮と伊達巻き、そして神社からの帰りに屋台で買った鯛焼きを食べた。神社の屋台で鯛焼きを買って帰ってくるのも毎年恒例になっている。私はあんこの鯛焼きが好きで、タクミはカスタードクリームの鯛焼きが好きだ。ふたりで少しずつお互いの鯛焼きをお裾分けし合って食べるのが暗黙のルールだ。
「うーん、やっぱりあんこは【豆福】が美味いと思うなー。」
「屋台のあんこと老舗和菓子屋のあんこを比べたらあかんて。屋台で使てるあんこは業務用の特大パック入りのあんこやもん。そりゃ私も豆福のあんこがこの辺りでは一番美味しいと思うけどさ。そうそう、全然話は変わるんやけど…。」
私はスマートフォンで楢崎レディースクリニックのオンライン診療予約サイトを開く。
「次のサイクルに入る前にまずオンライン診療を予約せなあかんねんけど、タクミも一緒にオンライン診療聞く?私が無理矢理録音させてもらったほんまの初診のときみたいな内容じゃなくて、凍結胚の説明とか次の治療方針の話やから別に聞かんで良い?」
「土曜で予約枠に空きがあるなら一緒に聞けるけどなー。」
「12月29日〜1月3日の年末年始期間は予約システムも休止やから予約が空いてるか埋まってるかしか見られへんねんけど、1月中の土曜は後半の21日と28日やったら若干空いてるかな。」
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