17 貴重な経験

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17 貴重な経験

 2月24日金曜日の昼間、生理がきて2回目の採卵サイクルがスタートした。前回と同じく生理3日目の2月26日日曜日から服薬、自己注射が始まる。1回目の採卵から結構期間が空いたので、自己注射への恐怖がまた復活してしまった。そんな私なので卵胞チェックのための通院の日は看護師がHMG注射をしてくれる安心の日だった。  今回のサイクルも前回のサイクルと全く同じ曜日回りだったので、採卵前の最終卵胞チェックの通院は3月4日土曜日、生理9日目ということになった。前回は途中でHMG注射を増やしたが、今回は増やしたあとのHMG注射の量でスタートしているので、今回は最初から成熟している卵胞が多くできているようだ。その分、前回よりもお腹の張りが強く、痛みを感じることも多かった。 「現状、卵巣内の卵胞は右で20mm以上が3つ、15mm以上が3つ、それ以下が5つ、左で20mm以上が4つ、15mm以上が3つ、それ以下が3つあります。もう採卵日も確定で良いでしょうね。では塩谷さんは生理13日目の3月8日水曜日、時間は7時40分に来院してください。詳しい説明は後ほど看護師からさせていただきます。」  一度診察室を出てから中待合で待ち、再び看護師にカウンセリングルームと札のついた部屋に呼ばれ、今日のHMG注射を打ってもらってから説明を受ける。 「当日来院していただいたら、エントランスの右手の奥にある門扉のインターフォンを押してください。氏名をおっしゃって頂いたら担当者が門扉のロックを解除します。お入りいただいたら窓口で担当者に診察券をご提示ください。医療廃棄物と残った薬剤等はそこで回収しますので忘れずにお持ちください。その後は担当者の案内に従って手術着に着替えていただき、案内されるまでベッドで待機してください。塩谷さんの採卵時刻は8時10分なので、3月6日月曜日は20時10分頃にこちらのオビドレルという注射を自己注射してください。HMG注射とデュファストンの服薬はだいたいその1時間前までに済ませてください。採卵は全身麻酔で行いますので3月8日に日付が変わってからは絶飲絶食でお願いします。その他の注意事項はこちらの用紙をご覧ください。」  ロビーに戻って会計を待つ。そう言えばタクミは何処にいるんだろう。メッセージも来ていない。「今何処にいるん?もしかして電車遅延とか?」とメッセージを送ろうとしたところで中待合とは反対方向にある扉から現れた人物を見て思わず声を上げそうになった。 「マナちゃん。ごめんな、待たせて。」  姿を見せたのは帽子を被ってマスクをして顔のほとんどが隠れているけれど、紛れもなくお義兄さんだった。
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