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18 2回目の採卵
今日は2回目の採卵だ。前回のような突発的な業務の要素もなく、2日前のHMG注射と服薬とオビドレル注射も落ち着いてできた。術前の待機中でも心穏やかだ。今日は前回よりも採卵する患者数が多いようだ。
間仕切りのカーテンがスッと開いて、看護師が呼びに来た。点滴のバッグを看護師が持って私を手術室に誘導する。手術室の入口の脇のパーテーションの奥で前の患者が手術室から搬出されるのを待つ。
再び看護師に誘導されて手術室に入り、手術台に体を横たえる。
「お名前をお願いいたします。」
「塩谷茉奈です。」
「リストバンドのバーコードを読ませていただきます。」
「はい、それでは麻酔入りますねー。目を閉じてください。」
そう言われるやいなや、頭がクラっとする感覚がして、私はストンと眠った。
チクッと痛みを感じて私は思わず「あっ、イテテテテ…。」と声を上げた。意識はまだ朦朧とするが痛みは感じる。
「塩谷さん、もうすぐ終わりますからねー。」
「イタ…イテ…イテテ…。」
再び眠気に襲われ私の意識は途絶えた。
「塩谷さん、お加減いかがですか?点滴はずしますね。」
看護師が私に話しかける声をかなりぼんやりしながら私は聞いていた。
「はい、もう少し寝かせてもらっても良いですか?」
「はい、大丈夫ですよ。ご気分悪くなられたらナースコールを押してくださいね。こちらよろしければどうぞ。では失礼します。」
ふっと目が覚めた。ベッドの横の鍵付きの収納の上にはさきほど点滴をはずしに来た看護師が「どうぞ」と置いてくれたであろう紙パックの緑茶と個包装の飴玉が置かれていた。
ベッドから起き上がり、鍵を開けて収納から荷物と洋服を取り出す。反射でスマートフォンを確認したが、今日は職場からの連絡は入っていなかった。時刻は11時を回ったところだ。紙パックの緑茶を飲み干して飴玉を舐めながら、手術着から洋服に着替える。
軽くお化粧をして、待機部屋を静かに後にする。間仕切りのカーテンが閉じているベッドがあるので、今日は私が最後ではなかったようだ。
花粉症の私はこの時期マスクが手放せない。なるべく外も歩きたくないので地下街への入口を見付けたら迷わず地下街へ降りる。今日はこのまま地下街で昼食を食べて帰ろう。
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