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夕飯の支度を終えた頃にタクミが帰宅した。今日の夕飯は雑穀ご飯とサバの味噌煮、にんじんシリシリ、サラダ(スーパーのパックサラダ)、豆腐の味噌汁だ。
「お疲れさま。」
「マナも採卵お疲れさま。」
私が夕飯を配膳しているとリビングに上着とネクタイとスラックスを脱いだタクミが戻って来た。
「あと、何かテーブルに運ぶものある?」
「もう用意できたから大丈夫やで。」
「そう?ありがとう。」
「ではいただきます。」
当然今夜の夕飯時の話題は採卵のことだ。
「昼間に胚培養士さんから連絡があってな、今日は13個の卵子を顕微受精しましたって。卵子は16個採れたんやけど3個が未成熟やったみたい。」
「またあの11万円のオプション申し込んだん?」
「今回、もうオプションの体外成熟培養は申し込まんかった。前回は効果なかったし、今回は成熟卵子を13個も採卵できたから。」
「そっか。前回凍結できたのが3割やから今回は4個くらい凍結出来たらええな。」
「うん。希望はね。でも前回で現実は甘くないって分かったから。あんまり高望みはせんようにしてるねん。…ってか、今日は採卵してる途中で麻酔が切れてさー。意識はぼんやりしてるけど痛いのはめっちゃ分かった。クリニックによったら麻酔せずに採卵するところもあるみたいやけど、私は麻酔なしとか耐えられへん!」
「えー!麻酔切れるとかあるんや!麻酔切れたまま採卵続行したん?!」
「そこはさすがにたぶん麻酔が追加されたんやと思うで。イテテテって言ってたと思ってたら寝てたから。」
「職場からの連絡はあった?」
「私も完全に麻酔から覚めて一番最初に職場からの連絡が入ってないか一番に確認した!連絡なくて安心したけど。さすがに今日は前回みたいな切羽詰まった状況で有給休暇取ったわけじゃないからな。」
「手術の後ですら職場からの連絡の有無を確認するとか…、」
「ほんま社畜やな、やろ。」
「ご明答!」
「タクミも大して変わらんと思うで?」
ふたりで笑い合って今日の夕飯も和やかに過ぎていった。
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