18 2回目の採卵

3/3

15人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
 採卵から1週間後の3月15日水曜日、昼休みにスマートフォンを確認すると、胚培養士の太田さんからの着信と伝言メモが残されていた。胚培養士の太田さん、2回目だな。折り返し発信し、胚培養士の太田さんに繋いでもらう。 「折り返しのご連絡ありがとうございます。胚培養士の太田です。では受精の状況と凍結保管状況についてご説明いたします。13個の卵子を3月8日に顕微受精し、5日目の胚盤胞を3つ、凍結保管させていただいております。凍結保管させていただいた胚盤胞のグレードはそれぞれ5AB、4BB、4BCです。詳しい内容については後日医師よりお渡しします培養レポートにてご確認ください。何かご質問等ございますか?」 「いえ、特にありません。ありがとうございます。」 「はい、では失礼いたします。」  グレードが良かったのがとても嬉しい。タクミの言っていた「確率3割で4個」には足りなかったけれども、グレードの高い胚盤胞を凍結保管できたのは大きな成果ではないか。今回はお義兄さんがお忍びで採精に来たときの精子を使ったのかな?私も初回の採卵の時のようなストレスにさらされていなかったのが良かったのかもしれない。  私はスマートフォンをロッカーに片付け、食堂に急いだ。時間がないときは食堂の炒飯(チャーハン)をがっつくのが私のお決まりのパターンだった。凍結保管の結果が良かったので気分が良い。昼からもフルスロットルで本務と本務の合間に引継書作りに励むぞーと意気込む私だった。  夕飯時のタクミとの話題は当然採卵結果だ。 「えっ!5AB!すごいやん!しかも今回は3つとも全部5日目の胚盤胞なんやろ?」 「そうなんよ!私の想像では、今回は私の精神的状態が良かったからやと思うねん。」 「あー…11月は休むのもやっとやったもんな。それはあり得るかも。」 「新しい場所に移ったら暫く慣れへん環境でストレス感じるかも知らんからまた採卵するにしても状態は今より悪そうやなー。まぁ、勝手にストレスのせいにするのもあかんけど。」 「せやな。マナの異動はほぼ確定やもんな。また暫くサイクルは休むん?」 「うん、どんな部署かも分からんし、新しい部署の上司になる人にもちゃんと説明してからの方が良いと思うから。まぁ新しく上司になる人には人事部から事前に私の事情はある程度知らされてるやろうとは思うけどね。」 「確かに自ら降職するなんて、病気療養とか親の介護とか特別な理由がなければ普通はせえへんからな。」  私の、と言うか社内の人事異動の内命は3月21日火曜日だ。春分の日がその前日か…。連休明けでバタバタするんだろうな。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加