19 いざ新任地へ

1/3

15人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ

19 いざ新任地へ

 3月21日火曜日、内命の日を迎え、支店内は朝からソワソワと落ち着かない。内命は午後、それも14時からと言うのが毎年恒例の決まり事だ。私はあと少しで出来上がりそうな引継書の作成に取り掛かる。  今年度はハラスメントで懲戒処分を受けた役職者が多かったので今までにないくらい人事異動が多いだろうというのが支店内での噂だ。タクミの所属している支店でもそんな噂を聞くと言っていた。確かに懲戒処分による解雇・退職や降職に伴って空席となったポストも多いので平行異動ではなく昇職異動も多いと見られている。部署の再編で役職者の数を減らす方針かもしれないという説を唱える社員もいるので結局どちらに転ぶのかは分からないが。  支店長室から部長が戻ってきた。間もなく14時、内命の時間がやってくる。部長が沢田課長を呼び、何か紙を渡した。沢田課長はその紙を見ながら社員に声を掛け部長席前に促している。部の中が緊張に包まれて静まり返る。私も部長席前に促され、山中係長と佐藤くんは「えっ?!」と驚きの表情を見せた。  部内2課4係の中で呼び集められたのは浦川課長、と係長2名、主任は私とあと2名、隣の係の役職なしの後輩が1名だった。部長が静かに内命を伝える。部内の人々全員がばっちり耳をそばだてているが、聞こえないふりだ。電話が鳴るとパートさんが応対している。  浦川課長は京都府内の支店へ課長として異動だった。昇職と言われていた課長が平行異動になったのはおそらくハラスメントの懲戒を受けていたからだろう。ひとりの係長は部間異動で課長に昇職、もうひとりの係長は私に以前忙しい中帰ったことをイヤミったらしく指摘してきた松宮係長だが、松宮係長は高槻支店に係長のまま平行異動となった。私以外の2名の主任のうち1名は泉佐野支店に係長として栄転、1名は部間の平行異動、役職なしの後輩は奈良支店に主任として栄転した。  私は予想通り住之江区の後方支援室に降職異動となった。私の内命時に役職が言われなかったことに気付いた社員が一瞬ざわついていた。  呼ばれた社員たちがそれぞれ自席に戻り、部長が今度は大きな声で、「今呼ばれへんかった社員全員集合!」と号令をかける。 「次年度からこの部は2つあった課は1つに、正直、線引きが不明確な業務をしてた2係をまとめてしまって、4係を3係に再編します。課という概念はなくなるけど沢田課長と、あと部長として僕も残るんでね。はい、次年度もよろしく!」
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加