19 いざ新任地へ

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 全員が自分の業務を再開した中で、山中係長だけがこっそりと私に話し掛けてきた。「ちょっと出よう。」と食堂に誘われる。食堂に入る前に課長が自販機でお茶を買ってくれた。 「この辺で座ろか。あのさ、塩谷さん、さっき役職言われへんかったやん?何かの間違いか?」 「いえ。間違いではないと思います。降職承諾書も書いたので。」 「えっ?!そんなん提出させられんの?!しかも後方支援室って企画職じゃなくて事務職やろ。事務職が悪いとか劣っているとかそういう意味じゃないけど、仕事内容的に単純作業が多いやんか。せっかく資料作りとかプレゼンとか今まで経験積んできたのに、もったいないなぁ。ほんまに良かったんか?」 「はい、不妊治療の通院しながら仕事もしてって言うのが正直つらかったというか、係長や佐藤くんに仕事を取ってもらわないといけないのが何より心苦しくて…。それに忙しいときに休暇取ったりしてご迷惑をお掛けしたのもつらかったです。周りは事情を知らないから『主任のくせに仕事を係長と部下に任せて無責任や』って私のことを遠回しに非難してきたこともあったし。」 「周りがどう思おうがどう言おうが気にせえへんやつもおるけど、塩谷さんはまぁそういう図太いタイプちゃうからな…。俺がもっとうまく仕事をコントロールできてれば良かったんやけど、力不足ですまんかったな。」 「いえ、係長には感謝しかないです。あとわずかな期間ではありますが、よろしくお願いいたします。」 「あぁ、こちらこそよろしくな。俺はちょっと一服してから席に戻るわ。」 「はい、ではお先に戻らせてもらいます。お茶ありがとうございます。」  係長は電子タバコをチラッと示して食堂から喫煙所へと歩いて行った。私は自席に戻り、どうにか引継書を完成させた。  内命の翌日から部内はまた慌ただしかった。異動する人たちは異動してくる人たちに自分たちの業務を説明しながら引き継いだり、逆に異動先へ赴いて引継ぎを受けたり、部に残る人たちも部内の再編に伴うレイアウト変更をしたりと人事異動期ならではの業務に追われた。  私もパートさんと共にこの部に転入してくる社員の受け入れ準備を行った。氏名札やパソコンにログインするためのIDの申請、ロッカーの手配、名刺の手配などなど。佐藤くんにも引継書を示しながら一緒に準備をしながら覚えてもらった。私の本務は部間異動してくる人にも佐藤くんにも引き継いだのでたぶん安心だろう。そうして私は淀屋橋支店から後方支援室へと移ったのであった。
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