20 新たな試み

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20 新たな試み

 4月も後半になり、私も後方支援室の業務に慣れてきた。年度末決算期の繁忙は私はほぼ戦力外だったが、決算期が終わり落ち着いてからはマニュアルを読んでもよくわからなかった処理については先輩に教えてもらって一通りの業務はこなせるようになった。  私の配属された会計処理の係の主任は佐野という年配の男性で、以前は課長職も務めていたが親の介護を理由に降職し、後方支援室の主任になったのだそうだ。要介護だった親は他界したが、再び昇職できる年齢でもなかったので後方支援室で主任をしているのだと言う。  佐野主任は物腰が柔らかくてとても話しやすい。私は自分が不妊治療中で支店では主任をしていたが、治療と仕事の両立が難しく降職して異動してきたことを話した。 「周りが協力的であれば心強いけど、頼らなあかん分、塩谷さんは毎回頼るのが心苦しくなったんやな。僕は介護しながら課長してたときは、課長なんて管理業務がメインやから仕事を引き継ぐとかはあまりなかったけどな、やっぱり自分がいない間は決裁が止まったりするから。かと言って自分がおらんときは決裁は【不在】で飛ばしてええよ、なんて1回言うたら、『お前は課長の責任を投げ出すんか!そんなん言うやつはもう辞めてまえ!』ってな。今で言うパワハラやな。ふっふっふ。こっちは実務的なこと考えたつもりやったんやけど、管理者言うんはそういうわけにはいかんって、当時の部長にどやされまくったわ。」 「そんなことがあったんですね。仕事の流れとかペースを掴むまでは治療はお休みしてたんですけど、そろそろ理解できてきたので通院を再開したいなと思ってるんです。また治療が始まったら時間休含めて休暇希望をお伝えしてもよろしいでしょうか?」 「あぁ、(かめ)へんよ。ここで働く社員は以前の僕みたいに介護とか、育児とかそれこそ通院とか、仕事よりも絶対に優先せなあかん事情のある人ばっかりやから。休むことへの理解はあるし、ただ休みがかぶるとお互いなかなか譲られへんとこもあるんやけどな。はっはっは。繁忙期でない限り、あと社員全員の休暇希望が重ならん限りはそんなに調整とかもせえへんから。安心して休みや。」 「ありがとうございます。」 「()よ赤ちゃん来てくれたらええなぁ。うんうん。頑張ってな。」  佐野主任の話すテンポ感がゆっくりなのと口調が柔らかいのとで、とても癒された気分になった私だった。
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