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私とタクミは早々に食事と片付けを済ませ、タクミの書斎スペースのパソコンを立ち上げて一緒に南田レディースクリニックや他の不妊治療専門クリニックがホームページで公開している検査や治療に関わる情報を集め始めた。明日はお互いに出勤予定のない土曜日だから多少はゆっくりできる。自分たちのために、上司に説明するために、不妊治療について勉強する。
「あ、採精キット渡しとくな。中に採精時の注意書きが入ってるから。一応私も院長から注意書きの内容は聞いたけど、私からタクミに説明するのはちょっとアレやから、タクミがちゃんと自分で読んでや!予約なしでクリニックに行って採精しても良いみたいよ。」
早速タクミは紙袋の中の注意書きを見て苦笑しながら、タクミの背後に立つ私をちらりと見上げた。
「注意すること結構書いてあるやん!確かにマナから説明されるんは…、生々しいな。」
両手で顔を覆って悩むタクミ。
「何をそんな悩んでるん?」
「いや、その…、マナが何回も採血されたり、子宮を検査されたりする方が俺の精液検査なんかよりずっと負担やって分かってるんやけど、改めて検査となるとプレッシャーで…。採精後2時間以内に病院に持ち込みってことは、もう次回マナが通院する日の朝に頑張るしかないわけやん?!」
緊張してヤバい!と言って髪の毛をグシャグシャにするタクミがなんとも可愛らしく感じてしまう。今度は項垂れて採精室がええかなーと独り言ちるタクミ。
暫しの沈黙の後、タクミが椅子ごとクルリと私の方を振り向いて言った。
「マナ!次の水曜日、午後から出張で直帰の予定やから、出張先からそのまま南田レディースクリニックに行くわ!」
「出張のあとやったら疲れてるんちゃうん?」
「マナも一応定時退社日やん?たまには平日のディナーをふたりで楽しんで帰るのも良いかなと思って。俺は俺の目先にマナとのディナーという人参をぶら下げて採精のモチベーションにするんや!」
「じゃあ、私ちょっと気になってるお店があるんよね。支店の近くの【アリオリクッチーナ】ってお店なんやけどな。」
タクミは早速パソコンに向き直って「淀屋橋駅 アリオリクッチーナ」と検索し、店のホームページを表示させると「おっ!オシャレやん!」と言ってメニューを見始めた。
タクミが無理して元気に振る舞おうとしているように感じて、私は心の中でタクミに「プレッシャー掛けてごめんな。」と謝りながら、横からタクミをギュッと抱き締める。するとタクミは私の腕をやんわりと解き、私を抱き締め返して呟いた。
「ヘタレでごめんな。情けない俺にマナのパワーをちょうだい。」
「じゃあ、久々に一緒にシャワー浴びる?」
「えっ?!良いん?!うわーめっちゃパワーもらえそう!」
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