20 新たな試み

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 私が後方支援室に移ってからは私の始業時間が支店にいた時より早くなったことと通勤時間がほんの少し長くなったことによって、平日にタクミと会話するのは夜だけになった。  今日の夕飯はご飯と豚肉の生姜焼きとトマトとアボカドの和風マリネ、ポテトサラダ(スーパーの惣菜)、ワカメと玉ねぎの味噌汁だ。仕事が定時に終わるのでタクミから夕飯キャンセルの連絡がない日は以前より料理を作る機会が増えた。  タクミにはいつも「仕事が早く終わるからっておかず作ってくれんで良いねんで。マナも大変やろうに。」と恐縮されているが、私一人の夕飯のときは盛大に手を抜いて、お弁当とか牛丼を買って帰ってくることもある。  タクミが帰ってくる前にシャワーも済ませるので、就寝時間も早くなり、私はますます健康に磨きが掛かっている気がする。花粉症はどうにもならないのだけれど。  玄関から「ただいま。」と声がした。タクミが帰宅したようだ。 「お帰りー。」 「誕生日おめでとう。」  リビングに入ってくるなり、タクミは手に持っていたケーキの箱を私に手渡した。 「あっ、ありがとう!そっかー。今日は4月19日やったなー。へへへ。35歳になりました。」 「忘れてた?」 「朝は友達から『誕生日おめでとう』ってメッセージもらったりして誕生日やなって意識あったけど、途中から忘れてたわ。上着とか早く脱いどいでや。早速夕飯食べてケーキもいただこ!」  夕飯を食べながら、私は「そろそろ不妊治療を再開しようと思う。」とタクミに話した。 「次は採卵と胚移植を同じサイクルで出来ないかなーと相談してみようと思ってるねん。」 「そんな方法もあるんや。俺はマナが望む治療をしたら良いと思う。」 「ありがとう。次のオンライン診療も4月22日土曜日の15時で取ったんやけど良いかな?」 「そんな直近で取れたんや!」 「実は前々から予約はしててん。不妊治療再開できそうになければ予約はキャンセルするつもりやったんやけどね。」 「そうなんや。さすが、準備が良いな。俺も横でオンライン診療聞いとくわ。」 「ありがとう。よろしく。」  食後のお楽しみを開けたくて私はウズウズしている。 「なぁ、ケーキ開けても良い?」 「もちろんええで!」  冷蔵庫からケーキの箱を取り出し、テーブルの上で箱を開く。いざ、ケーキとご対面だ! 「わー!キラキラー!果物いっぱーい!」  スポンジケーキではなくて、寒天のようなババロアのようなツヤツヤな本体の中にも上にもいちごやみかん、キウイフルーツ、ブルーベリーなど果物が盛り沢山で、果物をコーティングするナパージュがキラキラと(きら)めいていた。 「どうせ食べきるんやからこのままがっついちゃえ!」 「好きなだけ食べてやー。」  ささやかだけれど幸せな誕生日のひとときを過ごせた。
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