21 OHSS

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 5月8日月曜日、私はタクミを起こさないようにいつもどおり身支度をして家を出発した。下腹部の痛みは感じるが耐えられないほどではない。どうにか通勤ラッシュに揉まれながらも出社する。  ずっと下腹部は痛かったけれど、基本的にデスクワークなのでおとなしく業務をこなし、定時で退社し、クリニックに向かった。 「あら!塩谷さん、お腹めっちゃ腫れてますね!」 「はい、痛みもあります。」 「もう軽度の卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になってます。採卵だけにしましょう。」 「ですよね。残念です。」 「はい、内診します。」  診察室で再び先生から説明を受ける。 「現状、卵巣内の卵胞は右で20mm以上が5つ、15mm以上が5つ、それ以下が3つ、左で20mm以上が6つ、15mm以上が5つ、それ以下が4つあります。既に20個くらいは採れる見込みです。採卵日は生理16日目の5月10日水曜日、時間は7時20分に来院してください。先ほどもお伝えしましたが卵巣が腫れていますので移植は中断させていただきます。採卵当日の詳しい説明は後ほど看護師からさせていただきます。」  一度診察室を出てから中待合で待ち、再び看護師にカウンセリングルームと札のついた部屋に呼ばれ、説明を受ける。 「当日来院していただいたら、エントランスの右手の奥にある門扉のインターフォンを押してください。氏名をおっしゃって頂いたら担当者が門扉のロックを解除します。お入りいただいたら窓口で担当者に診察券をご提示ください。医療廃棄物と残った薬剤等はそこで回収しますので忘れずにお持ちください。その後は担当者の案内に従って手術着に着替えていただき、案内されるまでベッドで待機してください。塩谷さんの採卵時刻は7時50分なので、今日はこのあと19時50分頃にこちらのオビドレルという注射を自己注射してください。診察前にHMG注射もさせていただきましたし、もう点鼻もしないでくださいね。採卵は全身麻酔で行いますので5月10日に日付が変わってからは絶飲絶食でお願いします。その他の注意事項はこちらの用紙をご覧ください。」  診察前に注射してくれたのはオビドレルを注射する時刻の関係だったのか。会計のあと私はクリニックを出てズキズキするお腹をさすりながら天王寺駅の改札前にある総菜屋で総菜を手早く買って電車に乗り込んだ。  帰宅したら19時40分を回っていた。オビドレルの注射時刻に間に合うことができた。いつもどおり、手を清潔にし、下腹部をアルコール消毒綿で消毒する。オビドレルの注射器を箱から取り出し、下腹部をつまんで注射する。ちょうど19時50分を回ったところだった。
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