あなたに会いたかった

22 過熟

　私は軽症ではあったけれど卵巣過剰刺激症候群(ＯＨＳＳ)になってしまったため、採卵・移植同サイクルによる新鮮胚(しんせんはい)移植は実現しなかった。
　更に残念なことに、胚培養士の高瀬さんからの顕微受精結果報告によると、今回私は19個も採卵できたのに凍結保管に至った胚盤胞はたったの2個だったのだ。グレードは4ABと4BBで悪くはなかったけれど。どうやら過熟卵胞というものが多かったらしい。採卵までに卵子が老化してしまったということなのだそうだ。
　胚培養士の高瀬さんからの連絡を受け、私は次のサイクルに向けてのオンライン診療を予約した。タクミの予定が分からないけれど仕方ない。最速で予約できたのは6月3日土曜日の10時15分だった。

　夕飯を食べながらタクミに胚培養士の高瀬さんからの凍結保管結果報告を話すと、タクミもガッカリしていた。
「え？！あんなにお腹腫れて痛い思いもしたのに、19個中、2個しか凍結できひんかったん？ショックやな…。今回、ゴールデンウィークにかち合わんかったらもうちょっと凍結保管できてたんかな？そもそも採卵だけじゃなくて凍結してない胚盤胞も移植出来てたんやろか？」
「またタラレバの話になってしまうけど私もそう思わずにはいられへんくてさー。完全にタイミング間違ったなーって後悔してる。思った成果が出んくても1回70万円くらい払うのは変わらんやんか。もうほんまショックで…。」
「マナは次のサイクルはどうしよ思(おも)てるん？また採卵・移植でいくん？」
「もう今で8個の凍結胚があるから次は移植かな。3回採卵して単純計算でも210万円くらいは使ってしまってるしね…。」
「マナのクレジットカードで支払ってるから、俺今まで不妊治療費1円も払ってないやん！あとでネットバンキングで送金しとくから！ほんまごめんな！」
「おかげでブラックカードに切り替えしませんかってカード会社からハガキきたりしてるで。こんな高額出費が続くのも今だけやから切り替えるつもりもないけど。あ、そうそう。次のオンライン診療は6月3日10時15分で取ったんやけど、タクミは土曜日当番やったりする？」
「まだシフト出てないけど、次の日曜日が当番やから順番的にはまだ回って来(け)えへんと思う。」

　私ひとりでオンライン診療を受けたら担当医師にタラレバ話で食って掛かりそうなので、タクミには同席してたしなめてほしかったのだ。しかし実際はそうはいかなかった。