23 凍結融解胚移植

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「移植時は麻酔はしないんですか?」 「はい。移植の際は胚をチューブで子宮内に入れるだけなので麻酔はしません。移植が終わったらすぐにお帰りいただいて結構です。ただしあまり激しい運動はなさらないでください。移植当日は感染予防のため抗生剤を服用し、シャワー浴でお願いします。その他の注意事項はお渡ししますこちらの説明書をよくお読みください。」 「分かりました。」 「こちらが本日お持ち帰りいただくお薬です。エストラーナテープは引き続き4枚ずつ貼ってください。飲み薬がデュファストンですね。1日3回、食後とかに服用してください。そしてこちらがワンクリノンという膣錠です。1日1回の使用です。塩谷さんは移植が14時20分なので、初回は今日このあと14時20分頃に使用してください。明日以降は14時20分頃でなくて結構です。使い方は、こちら見本ですけども、箱から包装を1本取り出した状態です。包装を開けて、平たいツマミをポキっと折り取っていただいて、この筒をタンポンのように奥まで膣に挿入します。ここの長方形の膨らみには空気が入ってますので、この膨らみを押して空気を押し出すことによって筒の中にある膣錠が体内に入ります。膣錠使用後、この筒は医療用廃棄物ではないので普通に処分してください。なお、塩谷さんの妊娠判定日は7月26日水曜日です。こちらの妊娠検査薬を使用していただき、クリニックに結果を報告してください。質問はございますか?」 「いえ。大丈夫です。ありがとうございました。」  会計を終えてクリニックを出た。週が明けたら木曜日の時間休を申請しなければ。膣錠は落ち着いて使いたいので、今日はパンでも買ってひとまず帰宅することにした。  7月13日木曜日、今は14時を回ったところだ。間もなく初めての移植が始まる。さっき胚培養士の吉本さんという人からこのあと移植する胚盤胞について説明を受けた。今日移植する胚盤胞は私たちの中で一番の良好胚、2回目に採卵した5日目胚の5ABのものだ。たくさんの人が悩んでいる不妊症。初回の移植でうまくいくわけがない、と思う反面、5ABの胚だからうまく着床できるんじゃないかという期待もやはり持ってしまう。  看護師に案内されて手術室に向かう。入口の奥のパーテーションで仕切られたスペースの椅子に座って、前の患者が出てくるのを待つ。自分はただ手術台に上がって股を開いているだけだけれど、今日は麻酔もないから緊張で尿意を感じてしまう。  前の患者が出ていく気配がする。程なくして看護師に案内されて手術室に入った。名前とリストバンドのバーコードの確認を終えて手術台に上がる。いよいよ移植だ。
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