23 凍結融解胚移植

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「チューブ入ります。」  超音波でもチューブの挿入をモニターで確認する。 「では移植します。」  私は手術台の上に仰向けで寝ているので分からないが、何やらヴィーンと機械音がする。 「入りました。」 「チューブ抜きます。」 「残存チェックお願いします。」 医師と看護師と胚培養士もいるのだろうか?暫くの間があって「残存ありません。」と答える声がした。 「塩谷さんの移植終わりました。これが今移植した胚盤胞です。」  そう言って医師がエコーのモニターを見せてくれた。確かに何か白く光って見えるものがあるが、医師がこれを胚盤胞だというので私も胚盤胞だと思わざるを得ないのが正直なところだった。 「はい。ありがとうございます。」 「塩谷さん、ゆっくり台から降りてください。こちらへどうぞ。」  看護師に案内されて待機していたベッドに戻る。 「それではこのままお帰りいただいて結構です。どうぞお気を付けて。」  そう言うと看護師は次の患者を手術室へと案内するために戻っていった。  7月26日水曜日、妊娠判定の日。内膜チェックの日に渡された妊娠検査薬は市販の妊娠検査薬よりも早い時期から使えるもののようだ。生理予定日を1週間程度過ぎてからでなければ市販の妊娠検査薬では結果が出ないからだ。  今日は朝から妊娠検査薬を使うためいつもより少し早く起きた。実は妊娠検査薬というものを初めて使うので取扱説明書をよく読んで、いざ判定スタート!毛細管現象で線が表れるまでの時間が長く感じる。掛ける尿量が少なかったかな、など不安も(よぎ)る。  ついに結果が出た。表示されている線はなんと2本だ。まさか!こんなことってある?!1回目の胚移植で妊娠出来るなんて!私はトイレの水洗スイッチを押し、手を洗ってトイレットペーパーを短くちぎって妊娠検査薬を持ってトイレから出た。  いつもは寝ているタクミを起こさないように出発するが、今日くらいは起こしたって許されるだろう。寝室のカーテンをざっと開けて一気に明るくなる室内。 「タクミ!見て!妊娠判定、陽性やったで!」  タクミは一瞬眉間にシワを寄せて目をしばたかせた。コンタクトレンズが入っていないから見えないらしい。枕元に置いたメガネをさっと掛けて私がぐっと突き出した妊娠検査薬を見つめる。 「お、お、お。陽性!やったなー!くれぐれも身体大事にするんやで!重いもん持つとかあかんで。階段ではちゃんと手すり持ってや。」 「ありがとう。でも本番はこのあと受診して胎嚢確認やからね。」  タクミを落ち着かせつつも、私もすっかり浮かれていた。 「起こしてごめんな。私はそろそろ出発するわ。行ってきます。」 「ああ。気を付けて行ってらっしゃい。」
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