24 甘くない現実 再び

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 最初から私のお腹の中には赤ちゃんはいなかったわけだけれど、私は一つの生命を失ってしまったような気持ちになり、ロビーで待つタクミに「着床しかけたけど、あかんかったみたい。移植した胚盤胞は死んでしまったんやって。」と話すと涙が止まらなくなった。中待合での待ち時間が長かったのが逆に良かったのか私とタクミが土曜日の午前診の最後の患者になったので、ロビーには私たち以外いなかった。人目を気にすることなく私は泣いて、タクミもこっそり泣いていた。  落ち着いてきた頃に会計に呼ばれた。胚移植サイクルの精算もあるので会計までの時間が長かったのも逆に助かった。クリニックを出る頃には13時半に差し掛かろうとしていた。  私は泣き腫らした目をどうしようかと悩んだ結果、天王寺駅近くの100円均一の店でサングラスを買って隠すことにした。どうせどれも似合わないので適当に買って店を出たら、タクミにも「似合ってなさすぎ!もうちょっと何かあったんちゃん?!」とツッコまれた。 「今日はさ、マナが妊娠してたら食べられへんかったであろうものを食べに行こうや!言うても俺が思いつくのは寿司とか刺身くらいやけど…。もちろんマナが寿司とか刺身以外に食べたいものがあればそれを食べに行こう!」 「基本的に妊婦はナマモノとか半ナマの動物系があかんよな。私の好きな半熟卵とか温泉玉子とかもあかんのかな。卵かけご飯は生卵掛けるから絶対あかんな、うん。あとローストビーフに生ハム?刺身と一緒やけどカルパッチョとかもあかん。あと生春巻きも?」 「和食か?フレンチか?イタリアンか?アジアンか?とりあえずどっか飲食フロア行こ!暑いしな、宇治抹茶のかき氷も食べようや!パフェの上にケーキが乗っかってる【天王寺Wao】の店、えーっと…、なんや、名前忘れたけど、そこも行こう!」  タクミは私を元気付けようと、そのあとたくさんの甘味で私をもてなしてくれた。私の似合ってないサングラスを「それにしても似合ってなさすぎや!」とイジることも忘れなかった。そのたびに私は「言われんでも分かってるし!」と笑いながら返した。
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