25 希望の光

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 11月20日の胚移植も終わり、私たちに残された胚盤胞は4BCが2個、3BBが1個になった。妊娠判定を前に早くも次のサイクルのことを考えてしまう。前回の2個胚移植はやっぱりもったいなかったかな。  12月3日日曜日、妊娠判定日がやって来た。便座に腰掛けながら妊娠検査薬を両手に挟んで拝むのが妊娠判定日のお決まりになっていた。ふぅーっと大きく息を吐き妊娠検査薬を使用する。判定が出るまでの間、鼓動がバクバクする。  結果が出た。判定窓に表示された線は2本だ!つまりは陽性!しかし、初回の胚移植では生化学妊娠ということもあったので、私は冷静だった。今回陽性が出たことは確かにとても嬉しい!でも浮かれるのはまだ早いと自分を抑えながらトイレの水洗スイッチを押し、手を洗ってからトイレットペーパーをちぎって妊娠検査薬を包んでリビングにいるタクミに結果を報告しに行った。 「タクミ、結果出たよ。はい。判定は陽性でした。」 「えっ!陽性?!マナの反応から陰性かと思ったやん!ほんまや、2本線やん!陽性やん!」 「私は喜び浮かれたいとこなんやけど、以前のことがあるから自粛してんねん。」 「そ、そうか…。ほんなら俺も自粛しとくわ。」  そんなやり取りをしながらも、ひとまず陽性の判定が出たことによって、2サイクル連続で陰性だったときのあの閉塞感というか、行き止まり感は打開出来た気がする。 「マナさん、ひとまず久々に陽性が出て、気持ちもなんとなく上向きになったから、今日の夜は久々に何処か食事に行かん?」 「え?【花舞(はなまい)】行く?!」 「いやいや、客単価的に絶対お祝いで行く店やん!自粛の2文字、早速何処か行ってしもてるやん!」 「へへへ。冗談やて。」 「確かにゴールデンウィーク明けたら行こ、って前に言うて、結局行けてないけども。」 「予約取られへんから仕方ないよ。」 「ほんじゃ今日は何処に行きますか?」 「ほな駅の向こうに半年前くらいに出来た【星乃(ほしの)】に行ってみたいな。この前【星乃】のポスティングチラシが入ってて、冬季限定のとろとろビーフシチューが美味しそうやなと思っててん。」 「よっしゃ、ほな決まり。」  来週の今頃もこうして私とタクミがふたりで笑っていられますように。どうかこの陽性判定という希望の光がこの先も照らしてくれますように。  
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