26 生命

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26 生命

 妊娠判定翌日の昼休みにクリニックに連絡をして、次の通院は12月8日金曜日の17時に決まった。採血検査の結果が出るまで30分くらいかかるので、いつもの夜診の最後の時間帯では予約が取れないと言われ、なおかつ薬も追加で持ち帰らないともう家に余りがないことを伝えると、土曜日の診察も無理とのことで、12月8日の夜診の最初の枠にねじ込んでもらったのだ。予約が17時ということは時間休を取らないと間に合わない。  昼休み明けに佐野主任に「今週金曜日の後ろ1時間、時間休取りたいんですけど。」と言うと、「あー金曜日ね。その日は僕も南くんも中田くんも出勤してるから(かめ)へんよー。」と言ってくれた。  12月8日金曜日は中待合に通されると、看護師に「塩谷さんでお名前お間違いないですか?検尿お願いします。」と早速採尿カップを渡され、検尿を終えてお手洗いから出てくると、看護師に「塩谷さん、採血しますので処置室へどうぞ。」と呼ばれて採血された。  中待合はいつもより混雑している。内診室に呼ばれた頃には採血検査から30分以上経っていた。 「塩谷さん、エコー入りますからね。力を抜いてください。」  先生からいつものとおり声を掛けられ、私は祈りながら患者側のモニターを見つめた。私がそこに見たのは袋の中で白く光る玉のような小さな生命の始まりだった。感動で体が震える。 「塩谷さん、胎嚢確認できましたね。ではまた中待合でお待ちください。」 「はい。」  中待合でも私はまだ感動に浸っていた。タクミにメッセージを送ることすら忘れていたほどだ。診察室から看護師に何度か呼ばれて私は我に返った。慌てて診察室に入る。 「塩谷さん、胎嚢確認できましたね。ご妊娠おめでとうございます。出産予定日は来年の8月9日です。」 「はい、ありがとうございます!」 「今日がちょうど妊娠5週で、胎嚢確認できたところです。来週の妊娠6週の通院では胎芽の確認、再来週の妊娠7週の通院では胎児心拍の確認を行っていきます。このあと看護師からホルモン補充について説明しますけれども、暫くホルモン補充は続けてください。当院では分娩はできないので最長妊娠12週までの通院となります。ご自身でどこかの分娩施設で分娩のご予約をお取りください。来週の妊娠6週はまた今日と同じ金曜日でよろしいですか?」 「はい、また遅い時間が良いんですけど。」 「では12月15日金曜日の18時30分で予約確定します。」 「はい。ありがとうございます。」
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