26 生命

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 私は診察室を出て、医師からもらったばかりの胎嚢のエコー写真をマジマジと見つめた。「この子が今、私のお腹の中にいるんだ!」と実感が湧いてくる。タクミに「胎嚢確認できた!」と一言だけメッセージを送った。  看護師から呼ばれてカウンセリングルームに入ると、いつもの貼り薬と膣錠があった。 「こちら、来週の通院までの1週間分のお薬です。貼り薬のエストラーナテープは今まで4枚ずつ貼っていましたが今週は1枚減らして3枚ずつ、2日間貼ったら貼り替えてください。膣錠も来週の通院までの1週間分です。1日1回使用してください。お持ち帰りいただくお薬は以上です。何か質問はございますか?」 「大丈夫です。」 「それではロビーでお待ちください。」  会計を待っている間にタクミから「今度こそ【花舞(はなまい)】やな!」と短い返信があった。  買い物を終えて私が帰宅してから暫くしてタクミが帰宅した。 「お帰り。繁忙期のやのにこんな早く帰ってきて大丈夫なん?まだ20時になったばっかりやで?」 「ははは!もー、マナはやっぱ異動しても社畜やな!繁忙期でも定時退社日じゃなくてもたまには早く帰らせてくれよー。」 「あ、ごめん。また社畜出てた?すぐに顔出したがるから。」 「【花舞】は全然予約取れへんくてお祝いいつできるか分らんからさ。今日はささやかやけどこれでお祝いしよ!」 「うわー可愛い!」  タクミが持ち帰ってきたケーキ箱を開封すると天使を模した薄ーいチョコレートの飾りや色とりどりのカットフルーツがキラキラと(きら)めくデコレーションケーキだった。 「【Patisserie Minoru】!この店、この前関西ローカルのグルメ番組で取り上げられた!」 「そうそう。西九条の駅からちょーっと行ったとこにあるから行ってきた。さすがにテイクアウトやし夜は空いてたで。」 「西九条の駅からちょーっと行ったとこちゃうやん。一駅隣のほぼ弁天町やん。わざわざ行ってくれたんや。ありがとう!」 「ははは。そんな残ってるか分からんケーキのためにわざわざ行かんよ?通勤定期の範囲内やしな。一応、電話でホールケーキ小さくても良いんで1台残ってますか?って聞いて取り置いてくれたのがこれやったっていう。種明かしまでしてまう俺。」 「ありがとう、何でも嬉しいです!」  その夜はふたりでエコー写真を眺めながら美味しいケーキでお祝いして楽しい時間を過ごした。
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