30 あなたに会いたかった

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「俺の夏期休暇、出産予定日に合わせて早めに取ってたけど遅くしといたら良かったな…。あー!みんな夏期休暇交代で取ってるから、マナが出産のときに俺は出勤してなあかんかも知らん。」  タクミは朝から嘆いていた。 「この時期やから仕方ないよ。私は全然構わんから。」 「今日は休みやけど予定もないし、マナと一緒に俺も病院行って良い?」 「うん、ほなあと15分くらいしたら出発しよう。」  私はタクミと病院に向かった。 「塩谷さん、少しだけ赤ちゃん下りてきてますけど子宮口も開いてなくて、まだ日数が掛かりそうなので明日から入院して、陣痛誘発していきましょう。」  私は先ほど内診室で子宮口を開くためグリグリされたのがとても痛く、今は診察室で涙目で先生の話を聞いている。タクミも隣にいる。 「入院ですか…。」 「はい、入院です。外来のお盆休診が明ける来週まで状況が変わらなかったら妊娠41週に入ってしまうのでね。休診期間でなければまた2日後とかに来院いただいてから判断でも良いんですけどもね。」  何か不妊治療中も連休と重なってタイミングが悪かったことがあったな。 「ご主人もちょうどいらっしゃってるのでご納得いただけたらあとで施術同意書に署名していただきますね。それでは陣痛誘発について説明します。まず子宮口を開くためにメトロイリンテルというシリコンゴム製の水風船のようなものを子宮腔内に入れます。メトロイリンテルという名称よりもバルーンと言うほうが一般的な知名度が高いですかね。そしてオキシトシンというホルモン剤の点滴により人工的に陣痛を起こしてお産を促進するのが陣痛誘発です。こちらが陣痛誘発を行うことによるリスクを明記したものですが、この陣痛誘発によって起こりうる重大なリスクは過強陣痛、胎児仮死、子宮破裂、分娩後出血です。陣痛が強まることによって胎児にもストレスが掛かるので、過強陣痛による胎児仮死のリスクがあるということなんですけど、陣痛誘発剤を使用している間は、分娩監視モニターといって胎児心拍と陣痛の強さを数値や波形で医師や助産師が常に見ていますので、胎児心拍が落ちたときや陣痛が過度に強くなったときはオキシトシンの使用を中止します。ですので子宮破裂のリスクも低いです。」 「分かりました。同意書にサインします。」 「マナ即決やな。」 「だってこれが一般的な方法なんですよね、先生?副反応だって全部が全部私に起こるわけでもないし、重大なリスクだってちゃんと先生たちがちゃんと見ててくれるなら大丈夫やろ!それで最悪の事態に至ったら私はめちゃくちゃ不運ってことかも知らんけど。」  こうして私は翌日8月13日火曜日から入院が決まった。
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