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再会
「たけるくん!たけるくん!」
そう言って、彼の周りをクルクルと回って、ずっと引っ付いていた小学四年の夏。たけるくんは当時中二だった兄貴の同級生。夏休みの間よく家に遊びに来ていて、俺も一緒に遊んでもらっていた。
しかし、俺はその期間しか関わることはなかった。たけるくんはその後すぐに引っ越してしまったから。破天荒な兄とは違って、落ち着いていて大人びていて、優しくてかっこよくて、一番大好きだった。そんな人と過ごした夢のような短い期間は、俺にとってかけがえのない思い出。でも憧れのたけるくんとはもう二度と会うことはできない。そう思っていた。
あれから月日が経ち、たけるくんがいない六回目の夏が迫ってきていた。俺は高校一年生になって平凡な生活を送っている。今日は午前中で授業を終えて、昼くらいに家に帰った。
いつも通りリビングに入ると、ソファに寝そべっている見慣れない男がいた。俺の存在に気づいたのか眠そうな様子でこちらを向いた。
どうせまた兄貴の友達だろうと思い、部屋を出ようとすると、「あれ」となにかに気づいたような声が聞こえた。
「もしかして、美心?」
美心は俺の名前。
下の名前で呼ぶのは、俺の記憶では、家族とたけるくんしかいない。そのはずなのに思い出したかのように、俺を美心と呼んだ。まさかと思い、声も出さずに混乱していると、突然兄貴がきた。
「お前こいつ知ってんの?」
「中二の時。引っ越す直前一緒に遊んだろ」
中二の時。引っ越す直前。
徐々にパズルのピースがはまっていく感覚になる。
「覚えてない?久郷尊」
その名前を聞いた瞬間、ぶわっと鳥肌が立った。
六年前の夏から忘れられなくて、どうしようもなく会いたかった、あのたけるくんだ。
「あぁ?全く覚えてねぇ」
兄貴がそんな些細な事を覚えているわけない。
自分の興味ないことはすぐ忘れるし、そもそも知ろうとしない。そんな事よりいきなり家に現れるのは心臓に悪い。異常に緊張して、まともに顔も上げられない。
しかし、俺はすぐに異変に気がついた。
一瞬で軽く流し目で姿を確認すると、長髪で何個もピアスをつけている。明らかに見た目の治安が悪い。ここで完全に疑問に思ってくる。
俺の記憶の中のたけるくんは、普段はクールで冷たそうに見えるけど、笑った顔が爽やかで世界一キラキラの正統派イケメンだ。
なのに、なのに……
なんかすげー変わってんだけど!!!!
「えなに。感動の再会?どーぞ二人で募る話でも」
「お前とも感動の再会しただろ。修羅場で」
「あ〜なっついな。あれはまじでツボ。クズすぎていっぺん禿げろって思ったわ」
「それお前の話だろ」
なんの話をしているのかよく分からないけど、ものすごいクズ臭がするのは気のせいだろうか。
俺の思い出の中のたけるくんってこんなだったか。
いや、そもそも今はクソ遊び人の兄貴の友達だ。
よく考えたらまともな人では無いのかもしれない。
俺は、綺麗な思い出が崩れ去っていくのを感じながら、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
憧れの人との約六年ぶりの再会、俺は静かに理想と現実とのギャップに打ちのめされてしまうのだった。
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