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意表
次の日になっても心のもやは晴れなくて、それどころか曇る一方で琉悟にも心配をかけてしまう。どうしようもないことにいつまでも悩んでいても仕方ないと思い、アイスを爆買いしてから帰った。帰っている途中で我慢できなくて、何個か頬張りながら最後の角を曲がると長身の男が玄関前に立っていた。
「……えっ。なんで」
そこにいたのは久郷だった。
炎天下の中、いつから待っていたのだろう。
アイスを買いに行っていた時間分、帰るのが遅くなってしまった。
「話したい」
とりあえず家に入れて、エアコンと扇風機を同時につけ、タオルと保冷剤、あとうちわを持ってきて、久郷をソファーに座らせてうちわで扇いだ。しかし、急にその腕を止められて驚く。
「傷つけてごめん。あとキレたのと追いかけるの遅くなったのも悪かった」
すぐに離されたけど手がもの凄く熱かった。
顔も赤いし、汗も垂れている。
絶対そんなこと言っている場合じゃない。
「熱中症なる。あ、水も」
「いい。タオルとかで十分、もらいすぎなくらい。ありがとう」
暑さで視線まで熱っぽいから、そんな場合じゃないのにドキドキしてしまう。誤魔化すようにさっき買ってきたアイスを久郷の顔に突き出した。
「……つめた」
「一個。あげる」
すると、ありがと。と言って軽く微笑む。
かっこよすぎて、アイス溶けるだろ。
そんなことを思っていると、玄関が開く音がした。
「やばっ……あーえっと。来て!」
無我夢中で久郷の手を取り、二階の自室に急いで入った。兄貴に一緒にいるところを見られたくない。絶対に余計な事言うから。
「急に部屋連れ込んで何するの」
「いや、ち、ちがっ」
激しく動揺して後退りしたら、足が引っかかり、ベッドに尻もちをつく。
「意外と大胆だな」
こっちに近づいてくるのと同時に心臓の音がどんどん大きくなり、防御するようにクッションを抱きかかえる。久郷の手が頬に触れそうになった瞬間、思いっきり突き飛ばした。
「あ。ご、ごめ」
「……かわいくねぇ」
そんなことを言ってきてカチンときた。
「俺は、女じゃないっ……そもそも。可愛くなったら、俺のこと好きにでもなるのかよ」
女だったらもっと素直だったら、久郷は俺のことを好きになってくれたのか。そう思うとまた苦しくなって、すぐにでも溢れそうな涙が目にいっぱいに溜まる。
「俺の気持ちも知らないくせに。適当なこと言うんじゃねぇ……」
震える声で、精一杯の強がりで、言葉を放つ。
「俺はずっと。たけるくんに会いたくてしょうがなかった。けどたけるくんは違う。そういう、どうしようもない気持ちの差に、メンタル削られて……こんな苦しくなるなら会わなきゃよかった」
話している途中で溜まっていた涙が一気に溢れ始めて、抱えているクッションに染み込む。こんな餓鬼みたいに号泣してダサくてみっともない。
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