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あとから兄貴に聞いたところ、昨年の春にこの辺りの大学に通うため戻ってきたらしい。
偶然なことに兄貴と同じ大学で再会してからまたつるむようになったとのこと。今は一人暮らしでよく家で遊んでいたから俺とは会う機会がなかったみたいだ。急に現れた衝撃が強くて忘れてたけど、たけるくんはずっと俺の憧れの人なのだ。
彼以上に尊敬できて、大好きになった人はこれまでの人生で出会ったことがない。そのくらい特大のリスペクトがある。だがしかし、俺は断固として今の久郷尊を受け入れられない。
だって見るからにチャラチャラしてるから!!!
そんなことを悶々と考え、打ちひしがれていると兄貴からパシリに駆り出された。パソコンを忘れたから大学まで届けろという連絡が一通。無視をしたい所だが、あいつは自分中心で世界が回ってると思ってる奴だ。怒らせると後が面倒だから渋々言うことを聞く。
しかし、タイミングが悪すぎる。
万が一あのチャラ久郷尊にあったらどうすんだよ。絶対に気まずくて仕方ないだろう。
「尊!」
そんなことを考えていると、後ろの方でそう呼ぶ女の人の声が聞こえてきた。恐る恐る振り返る。考えているそばから、現れてしまった。俺は物陰に隠れて、バレないように様子を伺う。
「何」
「何ってなによ。今日三限終わったら付き合ってって言ったじゃん。忘れたの?」
付き合うってなんだ?
授業が終わったら恋人になるってこと?
その会話から大学は怖いところなのだと痛感した。
盗み聞きをしている途中で、俺はこんな奴に憧れ続けていたのかと疑問に思った。
それでも何故か、まだ誠実であってほしいと願っているのか分からないが、無意識に否定しろと心の中で強く思っていた。
「あー。そうだった」
この瞬間、かっこいいたけるくんはもうどこにもいないのだと分かってしまった。諦めるのと同時に無性に苛立って、その勢いで物陰から飛び出した。
「……おいっ」
「なんでいんの?」
「そんなのどうだっていいだろ!俺は、知らない間にあんたがただのクズになってることに怒ってんだよ……こんな事なら、会いたくなかった……!」
全部言い終わった後で、言いすぎてしまったことに気づく。しかし今更なかったことにはならない。
「……やっと喋ったと思ったら」
そう言いながら、俺に近づいてくる。
至近距離に立たれて初めて気づいた。
身長が高い、何センチあるんだ。
上からかけられる圧が、異様に怖い。
「俺のこと大して知らないだろ。会いたくなかったとか知らねーし、嫌なら話しかけてくんじゃねぇよ糞餓鬼」
こいつ、糞餓鬼って言いやがった……!!!
体が震える。体の芯から沸きあがる怒りで。
俺が言った分、全部返してきた。
最低。最悪。まじでむかつく。
こんな奴、二度と好きになんてならない。
「今のところクズ要素しかないし。今のだってそんな簡単に……つきあうとか……ありえないから!」
「は?勝手に解釈すんじゃねぇよ。こいつは」
そこで話が途切れたと思ったら、いきなり舌打ちをして逃げた。
「あっおい!どこ行く……っ」
追いかけようとすると、一緒にいた女の人に引き止められた。
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